【学園BASARA!】




昼休みの中庭に鮮やかな朱色を見つけた。

渡り廊下から中庭へ駆け出して、その背後から足音をたてないように近付くと。

どうにもその人は少し焦っているようだった。



「どうしたの、風魔の旦那」

「……!」



らしくもなく動揺しているその姿にこっちが驚く。

いったい何がそんなにこの人を焦らせるというんだ。



すると風魔の旦那は言葉を発しない口をぱくぱくさせて必死に何かをこちらに伝えようとしているようだった。

制服のシャツの裾を引っ張ったと思ったら、あわあわと腕を上下に振る。

その反対の手には針と糸。

風魔の旦那と針と糸。

妙な組み合わせだ。

…とか言ってる場合じゃなくて。

…………えぇと。



「…シャツの腕のボタンが外れたから縫い付けてたら袖口まで一緒に縫い付けちゃった?」

「!!」



ぶんぶんと頷く。

まじでか。

当たりか。

え、そんなベタな。

ていうかイメージじゃない。

なんでもそつなくこなすのが風魔の旦那でしょう。

それをあんた、よもや袖まで一緒に縫……ぶふ。



「それでそんなに焦ってたの」

「………」



こくこく。

…ま、人間誰しも得手不得手はあるよね。



「それなら俺様が直してあげようか。その袖口と、…ボタンも止めなおすよ」



見るも無残な手先の出る口を塞がれたシャツのその袖口に申し分程度にくっつけられているボタン。

本当に裁縫が苦手なんだなと少し微笑ましく思える。



「……!……!!?」

「遠慮することないって。こう見えても俺様こういうの得意よ?」

「………」

「…ちょっと、今見たまんまとか思ったでしょ」



失礼な。

でも別に本当のことだから気にしない。

完全に口の閉じられたシャツを旦那の腕ごと手にとって、糸を外しにかかる。

びくりと驚いてたけど縫い付けちゃうから動かないでねと釘を刺す。



「まったく、苦手なら今度から俺様みたいなのを頼りなよ」

「………」

「ボタン止めるくらい無償でやってあげちゃうんだから……っと、ハイ、できた」



最後にぽん、と無事に開通した袖口から覗いた風魔の旦那の手の甲を叩いて拝借していた針と糸を返す。

すると同時に校舎からチャイムが鳴り響いて昼休みの終わりが来たことを告げる。



「それじゃね、風魔の旦那」

「……!」

「いいえー、礼には及びませんって」



ひらひらと手を振って中庭を後にする。

裁縫が苦手、…かぁ。

意外だったな、あの風魔の旦那があんなベタなことするなんて。

それにしてもあの明らかに焦って袖口を引っ張りながら状況説明に苦しむ姿は



「(かわいかった…)」



なんて本人に言ったら怒られるだろうか。








【小太郎と、佐助】



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