企画text

□1000筆頭企画「佐助と幸村」
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毎月、一回だけ、決まった着信音が鳴る日がある。



ちょっと今流行りのアーティストの軽快なメロディが部室で休憩中の部員の耳に届く。

これは、俺が特定の人に決めた個別着信音で、この曲に登録しているのは一人だけなのだからこれがかかった瞬間に俺には誰から電話がかかってきたのかが分かる。

だからちょっと慌ててエナメルの鞄から携帯を取り出して、ディスプレイを見れば思った通りの人物。

少しだけ頬を緩めて、誰からだ、と言いたげな視線を寄越していた政宗殿から逃げるようにして部室を出る。

少し不自然だったかもしれないがまあ構わない。



「もしもし」

『あ、旦那ー?』



間延びした声。

外に出ているのか、その声の向こうからがやがやと雑音が聞こえてきた。



「そうだ。佐助、今、どこにいる?」



そう聞くと、佐助はえー?とまた間延びした緩い間抜けな声を出した。



『スーパーに決まってるじゃない。今はタイムサービスだよ』



ということは、あれだ。

月に一度のあれが来たということか。



「そうか」

『そうなんです。だから、今日は旦那の好きなものリクエストしていい日だよー』



好きなもの(その日の夕飯)をリクエストしていい日。

それは部活に入っている俺とは違い、バイトをしている佐助の給料日があった次の日かそれに準ずる日にやってくる月に一度のスペシャルデーだ。

まあ、いつも俺の希望を聞き入れてもらっていないわけではないが、この日ばかりは俺の意見が全面的に肯定される日なのだ。

そしてそれはこうして部活の休憩中に必ず電話がかかってきて、その瞬間の俺の気分でメニューを言う。

佐助は電話で俺の意見を聞きながら買い物をするので材料がなければその場で俺が意見を変えればいい。


佐助とは同居しているから、なかなかお互いがお互いの携帯に電話をかけることは稀だ。

毎日同じ空間にいるのだからそれは幸せなことこの上ないことだが、たまには電話越しの会話というのも憧れてしまうのだ。

だから月に一度必ずかかってくるこの電話は、少なくとも俺にとっては夕飯のメニューのリクエストの他にも大きな意味のあるものだと思っている。



『さあ、リクエストをどうぞ』



機械の向こうで佐助がおどけて言う。

今佐助は買物篭をぶら下げて、逆の手には携帯を持っているんだろうか。

その姿を想像したら実に微笑ましかった。



そうだな…



ハンバーグ…は先月頼んだし、パスタはむしろ先週食べた。グラタンは一昨日食べたしミートドリアは二週間前で、シーフードピラフは昨日の夕飯だ。

思ったものをポンと口に出せばいいだけだというのに、こういう時に限って俺は優柔不断だった。

電話の奥でまた迷ったるの?と佐助が笑う。

いっそ夕飯はおまえで、と言えたらと思うが次の瞬間に夕飯を抜かれそうな予感が嫌というほどよぎったので言ってみたい気はするけれど却下。

うんうん唸りながらなんとなく空を見上げてみると夕焼けに染まった鱗雲がチキンライスに見えたので「じゃあ、オムライスで頼む」と言ったら任せといて、と自信満々そうに頷かれ、電話が切られた。



夕飯はおまえ、…か



通話の切れた携帯を手に握りしめ茜色の空を見上げる。

いつか言ってみたい言葉だ…今日の夕飯の後にでもデザートはおまえ、とでも言ってみるか?



などとくだらないことを考えていた罰か、いつの間にか背後にいた政宗殿に気付かずにドロップキックをかまされた。

…迂闊。







side Yukimura


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