BASARA

□元親と佐助
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プルルルル


プルルルル


プルルルル



深夜、もうお決まりとなったアドレス帳のさ行の二人目の電話番号を引き出して通話ボタンをワンプッシュ。

機械的なコール音が受話器の奥から鳴り響く。

1、2、3、回



プルルルル


プルルルル


プルルルル



膝頭にやっていた視線を上げると自分しかいない一人の部屋の時計の秒針だけが動いている。

4、5、6、回



プルル、プツッ



『‐‐ただいま、電話に出ることができません』



やっぱりか。

耳に当てたスピーカーから無機質な電子音が聞こえてきて小さく溜息をつく。

長針が6、短針が2と3の間を示すような時間では電話に出られない方が普通、だろう。

明日だって平日だ。

あいつにだって学校はある。



『ピーッという発信音の後に、20秒以内で御名前と御用件をお話しください』



少しでもいいから俺の携帯のメモリのさ行二番目に振り分けられた「猿飛佐助」という奴の声が聞きたかった。

留守電に切り替わってしまった今では、それも叶わぬ戯言となってしまったわけだが。

まあ、伝言を残すくらいのことをしたってあいつも怒らないだろう。

電子音の指示通り、ピー、という発信音を確認してから小さく息を吸い込む。

ガラにもなく、あいつの携帯の留守電に伝言を残すという行為に少し緊張しているようだ。



「あー、猿飛か」



あいつの携帯の電話番号にかけてるんだから当たり前だ。



「夜中に悪いな、俺だ」



今ので4秒は使った。

時間は有限だ。

さっさと何か気の利いた言葉でも思いつけねぇのか俺の頭。



「こっちはちっと寒いが日差しは出てたぜ。桜の花が咲き始めた」



…ぶっちゃけN●Kの天気予報見てりゃわかるような気象情報と桜の開花予想だ。

しっかりしろよ俺。

野郎どもに慕われてる鬼の名が廃るぜ。



「そっちは寒くねぇか、腹出して寝るんじゃねぇぞ」



仕舞いにゃ憎まれ口ときた。

鬼のこの俺も猿飛の前じゃただのへたれってわけか。

情けねぇなおい。



「それじゃあな。…おやすみ」



プツッ











「…………はぁー…」



なんとも情けない伝言メッセージだ。

入れてみたはいいが最悪だ。



「……寝るか」



俺にも明日の仕事がある。



さて寝るか、とベッドに体を滑り込ませるとふっと頭をよぎる不安。

そういえば今は深夜であいつは寝ていて俺からの電話に出られなくてあいつはきっと朝起きて寝ぼけ眼をこすりながら俺の情けない(強調)伝言を聞くんだろう。



「………あ」



あいつの目が覚めてから伝言を聞くんなら、「おやすみ」じゃないはずだ。



「(…こりゃ、朝っぱらから笑われるな)」



後ろ頭をがしがしと掻き、過ぎてしまったことはどうしようもないと諦めることにしてベッドに心置きなく全身を預けた。


…まあ、あいつが笑うんなら、なんだって構いやしねぇさ。



なんてのは、ただの言い訳にしか聞こえねぇか?







separatamente


高校卒業後にお互い別々の土地で一人暮らしを始めた二人。
ちなみにアニキの携帯のメモリさ行の一番目はユキムルァ。

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