BASARA
□元親と佐助
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「ねぇ、ちょっとここのお店、寄ってみてもいい?」
触れるのも躊躇われるほどに透明な芸術。ガラス細工。
この店に入ったのは猿飛の要望があったからだが、結構見てみると面白いもので、ふと我に返ると猿飛をほったらかして見入ってしまったようだ。
猿飛は店の一番奥でガラス工芸を実演しているスペースで、その職人の手元を食い入るように見つめている。
ガラス製の動物やどこかで見たことがあるようなキャラクターの置き物に始まり、フォトフレームからアクセサリーまで。
立体感と躍動感のある繊細な作品に目を奪われてはそれを食い入るように見つめる。
なんとなく、透明感があって、下手に触れれば一瞬で壊れてしまいそうなところなんかを猿飛に重ねてみたりして。
俺はバカかと今まで眺めていたコーナーの一角から離れた。
猿飛はまだ職人の見せる技に目を輝かせていたが、俺が動いたことに気が付いたのか、ぱっと顔を上げるとこちらへ歩み寄ってきた。
もう実演は見飽きたのか。
「もう、お店入った瞬間から見入っちゃうんだから」
「あー、わりィな。興味深くて、つい」
「別に気にしてないけどね。…それより」
こっちきて、と腕をつかまれる。
今までいた動物なんかのコーナーから離れて連れてこられたのは童話がモチーフのメルヘンなコーナーの一角。
男一人でここを眺めるのは少しばかり勇気がいるが、猿飛らしいといえば猿飛らしいコーナーだ。
おとめチックというかなんというか。
…まあ、本人に言ったら殴られるだろうがな。
「これ、」
見て、と言われたその視線の先には、照明の柔らかい光を浴びてきらりきらりと輝くガラスの靴。
ハイヒールのそれは、有名なあの童話に出てくるガラスの靴をモチーフに作られたものらしい。
小さい子供ならはけるような大きさのものから手のひらサイズのものまでがそこのコーナーに並べられていた。
「きれいだな」
「でしょ」
隣の猿飛は、笑顔。
童話に恋する歳ではないと思う(そもそも猿飛は男だ)が、憧れるものは憧れるものなのか。
ガラスの靴を持って現れる王子とやらに。
「…欲しいのか」
「え?」
一列に並べられたさまざまな大きさのガラスの靴を品定めしながら問うと、猿飛は驚いたように聞き返してきた。
…ま、手のひらサイズのやつが値段的にも手頃だな。
「なーに呆けてんだ。ガラスの靴、買ってやろうかって言ってんだよ、俺のシンデレラ」
「…ちょ、んなっ……!!」
ひときわ輝いている(と思われる)手のひらサイズのガラスの靴に候補を絞って、隣で顔を赤くしている猿飛はとりあえず放置してレジに立っていた初老の男に声をかけた。
丸メガネをかけた優しげな印象の男は、俺の指さしたガラスの靴を手に取り訊ねてきた。
「恋人に贈りものですかな?」
「…ま、そんなもんだな」
「ではプレゼント用に包装致しましょうかね」
「頼む」
レジの奥に引っ込んだ男がリボンの色は何色がよろしいですかなと問いかけてきたので、俺は隣でボンと橙が羞恥のあまりに爆発した音を聞きながら、じゃ、橙で、と答えた。
Cenerentola