小咄


□日和deバイオハザード(びよハザ)
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「まったくもう!ずんずん師匠を置いていく弟子とか訳分かんないよ!しかも…って何何?その綺麗な奴!?」
「人の物に触るな!」
「アンプル!!」



知らぬ間に着物の合わせに差し込むようにしてアンプルが輝いている。彼に言われるまで気が付かなかったが、咄嗟に彼をアンプルから遠ざける事にした。多少遣り過ぎかもしれないが、『時期によっては毒にも薬にもなる』と言っていた、『毒になり兼ねない物』を渡すわけには行かない。ゴミ箱に捨てておこう。



「うぅ…ただ聞いただけじゃんかよ!曽良君のけちんぼ!そうだ、『けちんぼな曽良君』略して『曽良んぼ』と認定して…」
「……」
「…曽良君?」
「あぁ、いぇ、芭蕉さんこの坂を転がしたらどうなるかと考えていただけです。」
「物騒な事考えんといて!」
「嘘です。」
「師匠をからかうなー!!もういいよ。私も疲れたし、少し休憩に…」
「休憩は終わりました。さ、行きますよ。」
「曽良君、私まだ来たばかりだし、まだお団子食べてないんだけど?」



あの人の話を鵜呑みにするには胡散臭過ぎるが、多少のケチが付いたのは確か。嫌な予感もするし、先を急いで一刻も早くこの先の村を通り過ぎるべきだ。



「僕はもう食べました。」
「此処は美味しいって有名で…」
「えぇ、美味しかったです。」
「やだやだやだー!私此処のお団子楽しみだったし、もう歩けないんだから!曽良君がさっさか行くもんだから、超ぱんらはぎなの!」
「子供みたいな事言ってると置いていきますよ。」



いつにもまして喧しく駄々を捏ねていて、意地でも動かないだろうな…。さて、コレを動かすのは面倒だが此処に留まるのは了解しかねる…



「此処は弥勒堂って言ってね、曽良君と一緒に食べようって決めて…」
「勝手に僕の行動を決めないで下さい。そんな事よりもつべこべ言わず…」
「旅のお兄さーん!」



武力行使でもって店を後にしようと構えた僕に、先程の店員が何やら持ってきた。



「はい、確かに渡しましたからね。」
「…此れは?」
「先程話されていたお客様からお代は頂きました。」



先程のと言う事はあの男が注文していったという事だろうか?何やら不思議な感じのする男だった。包みの中には芭蕉さんの欲しがっている団子が入っていたが、彼に団子を奢って貰う謂われが無い。



「わぉ、四本も入ってる♪」
「受け取れません。」
「えぇ〜!!」
「受け取る理由もありませんし、大体ほんの少し話しただけの方に頂く訳にいきません。」



お代だけ払っていったのなら毒などが入っている事はないだろうが、唐突に物騒な話題を切り出す相手に用心するに超した事は…



「理由なら有りますよ?」
「!?」
「ウチはお代を頂いてしまったんだから、商品を受け取って貰わなきゃ困ります。」
「しかし…」
「分けて良、食べて良、仕方なければ捨てても良。兎に角渡しましたからね!!」



彼女は口上と同時に包みを芭蕉さんに押し付けて去っていった。



「…ねぇ…曽良君、これ…」
「ハァ、勝手にすればいいでしょう。」



芭蕉さんは驚きながらも、念願の団子を手に入れ嬉しそうだ。
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