オリジナル小説

□僕と人形と私
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「勇生(ゆう)、いつまで寝てるの!?」
「起きてるって」
 夢のことなんて忘れて、起き上がる。母さんの声で僕の一日がいつも始まるから、めんどくさくて敵わない。ずっと、寝ていたくても、無理矢理にでも起こされるんだから、休日だったら堪(たま)ったもんじゃない。
「いい加減に降りてこないと怒るわよ!」
「起きてるって言ってんじゃん」
 全く、毎回毎回同じ会話をやるって、よほど飽きないんだろうな。僕はもう飽きてるっていうのに……。まあ、それも仕方ないことなのかもしれないけど。
 僕はだるい体に鞭打って、制服に着替える。水色のYシャツに深緑と黒の縞々模様のネクタイを締め、紺のブレザーを着る。ズボンは緑系の格子状のものを履く。デザインはどうでもいいのだが、着心地がいいから案外気に入っていたりする。
 着替えを済ませるとさっさとリビングに向かう。のんびりやっていたら、また母さんから声がかかるだろうし、な。僕はそれを何としても避けたい。母さんの声ほど何度も同じことを聞きたいとは思わないんだよな。父さんと話しているときは、そんなことはないんだけど、母さんとはさっさと話を終わらせたいと思ってしまう。
「おはよう。ご飯、何にするの?」
「う〜ん、昨日の晩のコロッケ、余ってたよね。僕、それでいい」
「そう、わかった」
 母さんは僕に台所からそう尋ねて、僕の答えを聞くとさっさと昨日の晩のコロッケを温め始めた。そして、僕の目の前には先にご飯と箸、お茶が置かれる。ピピピッとレンジがなると中からコロッケを出して、僕の前に置く。僕はそれを何もいうことなく食べる。その間に母さんは弟たちを起こしに二階に行ってしまった。僕のときとだいぶ、対応が違うじゃないか。
「定志(のぶ)、王(たか)、真砂(まさ)、早く起きなさい。学校に遅れるわよ」
「まだ、大丈夫だって」
「もう少し、寝たいよぉ」
「今日の朝飯、何?」
 母さんの声と寝惚けた弟たちの声が聞こえてくる。まあ、一人は食欲旺盛だから、睡眠よりもご飯なんだろうけどさ。だとしても、やっぱり対応が違いすぎる。僕の場合は下から苛立った声をかけてくるだけだというのに、弟たちのところにはわざわざ起こしに行くとか。プライバシーとかを考えてくれる親というわけではないから、どういう意図があるのかは全く分からない。コロッケを少し口に含んで、ご飯をプラスで入れる。ハムスターが餌を頬袋に入れている状態みたいな感じだ。
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