オリジナル小説

□僕と人形と私
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 青い空に冷たい地。私が感じたそれが全て。
 音は……私が拒絶した。何も聞きたくなかった。

 赤い着物におかっぱ頭の女の子はいつも、何かするわけでもなく、夢の中で雨も降っていないのに紺の番傘を差して歩いている。カランコロンと足駄を鳴らしながら歩く。たとえ、夢がビルに囲まれた世界であったとしても、彼女は気にすることもなく、歩いているんだ。
「君は誰?」
「あたいは○○だよ。アンタ、忘れたのかい?」
 勇気を出して話しかけた僕に当たり前のように答える彼女。だけど、僕には名前がわからなかった。名前のところだけが綺麗に雑音になっていたから。しかし、彼女はまるで僕を知っているようだったし、僕も彼女を知っているというような言い方だった。
 彼女は黙ってしまった僕をジッと見ていたけど、すぐに興味をなくしたのか、またカランコロンと足駄を鳴らしながら、去っていく。彼女が何者なのかは分からない。でも、なんだか、彼女のことを知っているようなそんな感じがした。遠い昔に見た何かだったような、そんな感じだ。
「♪君は誰? あたいは○○さ。アンタも知ってるはずだよ。だって、アンタがつけた名前なんだから♪」
 カランコロンと足駄を鳴らし、クルクルと番傘を回し、彼女はそう歌いながら、僕の前から消えた。彼女の歌の内容はさっき僕が聞いたことだった。その歌には不思議な歌詞があった。「アンタがつけた名前」、僕は誰かに名前をつけたことなんてない。だからこそ、余計に彼女のことが不思議でしかたなくなった。
 でも、夢はいつもそこで終わる。同じ夢を何度見たことか。必ず、彼女のことを追求する前に目が覚めて、ぼんやりとしか内容は覚えていない。そして、いつもと変わらない日常が始まるんだ。
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