本棚5

□サンザシ誓約
1ページ/1ページ

2016年5月13日13時13分に君と出会ったから今日は公B記念日。




僕らの間には何枚かの誓約書がある。
国語のノートの切れ端に鉛筆で書かれたものだったり、ルーズリースに書かれたものだったり、形式は様々だ。けれど、僕らにとっては間違いなく誓約書だ。
それもこれも、まるで言質を取ったと言わんばかりのニヤリとした顔で僕をケイパーならずに事件に巻き込む親友の行動力のせいだ。
約束をするとき、必ず文字にしてそれを相手に渡す。
そうして言質をお互いに取る様にした。
ただ、必ずしようとそれを約束したわけじゃなくって誓って約束すると明言した時だけ誓約書は作られた。

「このハンカチには種も仕掛けもないよ。誓って約束しよう、公一」

そう言ってビーティーは、すでに書いてあったらしい誓約書を差し出して笑顔のままハンカチを振った。
しかし、種も仕掛けもないと言いながら彼がするのはマジックだ。
当然種も仕掛けもあるに決まっている。
それはこれから出てくるハンカチ以外のアイテムにだ。
こうやって誓約書を作る時は絶対に嘘をつかなかった。
誓って約束すると言った時は、どんなことでも嘘ではなかった。
ビーティーと僕とでこれも明確に約束したわけじゃない。
約束の約束なんておかしな響きだったし、信頼しているからこそあえて問わないことでもあった。
マジックの時にこうやって誓約書を出すのは、僕にくれるヒントだった。
いつもいつも、どうやってるのと聞いてしまう僕に、ビーティーはちょっとは自分で考えろよと笑いながらも教えてくれた。
誓約書を作る様になって、しばらくたってこの誓約書の内容がマジックのタネを考えるヒントだと気づいたのは最近だ。
今日のマジックは鉛筆を使ってやるらしい。
オレンジ色の夕日が差し込んでくる教室は僕とビーティーだけで静かだったので、彼の声がよりハッキリと聞こえた。
快活に語ってみせ、時には悪漢相手に一喝してみせる声が、笑うと思ってたより可愛らしい転がるような声。
ビーティーの声は麻薬みたいに惹きつけて僕を離さない。

「ねえビーティー、マジック始める前にさ。僕も約束を書いてきたんだ」

鞄の中から折れないように大事に、大事に持ってきた白い封筒を取り出す。
彼はハンカチを持ったまま、じっと封筒を見つめていた。
約束を書いた紙を封筒に入れたのは初めてのことだった。

「なんだい、畏まった約束なのかい?」
「うん」

机の上へ置いてビーティーへと滑らせて差し出せば迷う様子もなく受け取られた。
ドキドキした。
冗談でもなんでもない、本当に畏まった一生に一度の約束が書いてある。
眉を潜めて封筒を開けたビーティーが、これまた白い便箋に書かれた文字を追っていき、そしてまん丸く目を見開いた。

「君が、好きなんだ。うそじゃないって誓って約束するよ。ビーティー、君が好きだ」

珍しく困惑と動揺に顔を赤らめる君を見て、きっと一生ものの約束になると思った。




サンザシ誓約




2016年5月13日(金曜日)
公B記念日
誕生花 サンザシ(メイフラワー)
メイフラワー誓約 誓約(誓って約束)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ