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□あれもこれもえっ.ちらおっちら
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ギュスケルのえっちらおっちら
c88無配



 酒場の二階はいわゆる、駆け込み宿だ。
大抵、女の肩を抱いて上がっていくもの。
 しかし、ギュスターヴが抱いているのは男の肩で、抱かれているのは自分だ。止めろと言ったけど、酔っぱらいの介抱だと思わせた方がお前のためだぞと言われたら、何も言えなくなってしまった。
通常あり得ないことではあるが、船乗りの間では男性同士で関係を持つ事が少なくないという話を聞いたことがある。船には女を乗せないというのは、古くからあるジンクスだ。
 そのためか店の店員は特に驚く様子も、訝しがる様子も、物珍しい物を見る様な目もなく、平然と鍵をくれた。
 いや、そもそもそのような駆け込み宿の目的で使おうとしている私の認識がおかしいのだ。今から宿を取るのが面倒な酔っぱらいが、そのまま酒場の安いベッドで寝るのも不思議なことではない。宿代をけちって男二人で一つの部屋に泊まることだって、おかしいことではないはずだ。
 全ては、私の認識が世間のものとずれているせいで、そう感じるだけに違いない。
 真鍮の鍵を回して木戸を押し開く。一人で寝るには幅広なベッドが、どんな目的で使っているかを雄弁に語っているように思えた。
「ッ、あ…おい、ギュスターヴ…!」
 部屋に入った瞬間、首に噛みつかれた。骨の形まで確認するように、大口で食らいつかれて、舌で舐めまわされる感覚は背筋が震えた。
 鍵がかかっていないこともそうだが、なにより汗が気になった。ついさきほど、背中から覆いかぶさってくるこの男に真正面から言われたことだ。ギュスターヴも馬鹿ではないから覚えているだろうに、汗ばんだ肌を舐めまわされる感覚は的確に羞恥を煽った。
「っ…ギュ、スターヴ…せめて、汗ぐらい…ッ」
「いい、そのままでいい」
「は、あ…ッ?」
 乱れたシャツの裾から手を差し込まれて腹を撫でられる。首筋と同じく汗ばんだ肌に、ギュスターヴの熱い手が這わされていく。湿った肌に吸い付くような手は、それだけで口づけを落とされているような錯覚を覚える。ひとつ、ひとつ、唇から首筋へ、胸へと落とされていく愛撫のそれら。ただ撫でられている、それだけなのに情欲を煽り立ててくる。
 襟足、髪の生え際を産毛に刈り上げた短い毛すらも一緒に食むように舐めあげられると、もう立ってなどいられない。
「ひ、ぅ…ぅ…ッ…」
「どうせまた汗まみれになるなら、後でも先でもおんなじだろ?な」
 ごとん、サーベルごとベルトが落ちて、続いて後ろでも同じように重い音が響く。すぐ目の前にベッドがあるのに、やんわりと抵抗を抑え込んで服を脱がしていくギュスターヴの器用さが憎たらしい。
 そう思いながら、与えられる熱に、刺激に、あられもなく下肢を濡らしているのは紛れもない自分なのだからもう、目も当てられない。
 さっさと、お前の牙で一思いに食べてくれ。






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