本棚5

□あんたは俺の可愛い娼婦
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口の中いっぱいに流れ込む粘液をこすり付けるように舌を押し付けられて、唇ごと飲み込んで吸い上げられと、気圧が下がるような感覚が密着度を増す。
ベッドの上に座っているのに悲しいまでの身長差と体格差で、首を上げてされていたキス。
そしてそのまま押されてベッドに唇から縫い付けられるようにされてしまえば、逃げようもない。
注がれる唾液は絶え間なくて、飲み込みきれないものは口の端っこから溢れて首のあたりが冷たくなっている。
体中、火に炙られてるのかってぐらい熱いのに。
鼻で呼吸をしなくては呼吸困難で死んでしまうとわかっているのに、密着度をさらに増していく口に翻弄されてどうしようもない。

「んあ、っ、んん〜〜〜っ……!」

湿った声が自分の喉から漏れるけど、すぐに塞がれた。
名前を呼んで、ちょっと待ってと叫びたいのに、それすらも叶わない。
じゅるじゅると唾液を啜られると、背筋に悪寒のようなものが走る。
でも嫌だからじゃなくって、気持ちよすぎるからだって知っている。
知っているからこそ抵抗はできず、されるがままに唾液を注がれて、舌でこねまわして舐めまわされ、思い出したように混ざり合った唾液を飲み込んでまた舐めまわして、捏ねまわして。
やられていることは同じはずなのに、そのつど触れる場所を変えてくるから飽きることなく気持ちがいい。
何度も、何回もされるザップさんのキスは、僕のキスという概念を軽々と覆した。
挨拶でするキスも、コミックでする恋人同士のキスも、ただ触れるだけのものだった。
こんな風に内側を舐めて、擦って、出し入れするようなキスを今まで僕は知らなかった。
付き合った女の子とキスはしたことがあっても、セックスの予兆をさせるキスはヘルサレムズ・ロットに来てからが初めてだった。
その初めてが最低で最悪な職場の先輩だっていうのが、本当に最悪で最低で、セックスをしてあまつさえ好きだって思ってしまったのも本当に、最悪で、最低だ。

「ぷはあっ…はあ、…れーお…きもちーだろ?」
「ひゃ…ひゃぃ…」

真正面、それでいて間近。
なのに焦点の合うぎりぎりの距離で、いやらしく笑うザップさんは楽しそうだ。
僕はすっかりザップさんからされるキスでへろへろで、いっぱいっぱいで、舌も口も馬鹿になったみらいで言葉がうまく出てこない。
とても気持ちがいいキスはすっかり僕の思考を奪って、口寂しくって半分開けっ放しになっているのは鏡を見なくたってわかった。
熱く溶けるような舌がさっきまで口の中をいっぱいにしていたんだ。
触れていないと寂しくって、物足りなくって、押し倒されてすっかり脱力しそうなっている体に鞭打って顔を上げる。
おっ、って楽しそうな顔をしたザップさんが顔を引いたので、唇の表面に触れるだけのキスになってしまった。
おいなんでだよ、僕はそのもっと、内側に用事があるっていうのに。
不満が眉間に皺を作る。
それを見たうえでなぜかザップさんはさらに距離を取るから理解ができない。
すでにまともな思考はトイレにでも流してきてしまったように浮ついていて、どろどろに溶けた口元は本能だけで舌を伸ばす。
褐色の肌の中、薄い色素の唇に舌が触れた瞬間の衝撃は、何度耐えても耐え切れない。

「あ……は、ぁ…ぁ……っ…」

恍惚が喉を通り抜けて、喘ぎ声が漏れる。
舌が触れるだけなのにどうしようもなく、気持ちがいい。
にたぁ、って笑うのが見えてくそ野郎って思う。
僕が必至に求めようとしているのを見るのがすげぇ好きなんだこの人。
自分が慣れてるからってザップさんは、僕の余裕がない姿を見るのがこの上なく好きだ。
キスどころじゃない、手コキにフェラだってされて、その度に気持ちよくってわけわかんなくなっている僕を見るのが大好きな人だ。
僕からしたら、とんでもなく厄介この上ない性癖してやがる。
でも、セックスを拒絶しないのは、毎回拒絶することを思いつかないほどに興奮させられて、もう後戻りできないぐらい勃起させられているからなんだ。
こんな状態でむしろ放っておかれては、そちらの方が大参事。

「は…はっ…ぁ……んっ、ぁ…はあっ…」

呼気と一緒に声が零れる。
口をにんまりさせたままのザップさんとは対照的に、口を開いて舌を伸ばす僕の姿はさぞや滑稽だろう。
目元がさらに細くなって、にまにまと笑っているので察した。
しかしどんなに顔を寄せて舌を伸ばしても、やっぱり唇の表面を舐めるしかできない。
やっぱりまた、にたぁと胸糞悪くなるほどいやらしい顔で笑うザップさんに平手の一発でもかましてやりたい。
そんな風に思い始めた頃にようやく、ザップさんから舌を伸ばしてきた。
餌を与えるようだと思ったけど、待ち望んだそれにすぐさま食らいついた。
待ってなどいられないぐらい、頭は沸騰している。
先端を触れさせてそのまま裏側を舐め上げていくと、口を開けたままのザップさんの喉から呼気が漏れるのを感じた。
ちゃんとザップさんも気持ちがいいのがわかって、少しだけ余裕が生まれる。
僕ばっかりじゃないと安心できる。
今度は僕がと思って舌を絡めていくんだけど、舌を伸ばした状態ではどうしていいのかわからなくて表裏を舐めるぐらいしか思いつかない。
そうしていると少しずつザップさんからも声が聞こえるようになるけど、呂律が回らなくなりはしないだろう。
いつも、先に呂律が回らなくなって馬鹿みたいに名前を呼んで、馬鹿みたいに腰を振ってザップさんを抱いてしまうのは僕の方だ。
きっと今夜もそうなる。
馬鹿みたいに。

「はあっ、は…あっ、はぁ…あっ…は…は……ん、は…っ」
「…っ…ん…あー…れお…れーお…」
「は…はぁ…なんすか…?」

舌だけで触れ合っていた接触を断ち切られて、可愛いこぶった声色で名前を呼ばれた。
その猫なで声には騙されないって僕の決意は固い。
中身がクズで人として最低な低俗な事を考えているのはいままの経験上よくわかってるんだから。
むしろ、こちらとしては気持ちよかった接触を一方的に打ち切られて機嫌は急降下しているというのに。
妙に機嫌がよくってまた腹が立つ。

「きょうは、おれがおまえのおんなだ、なあ?れお」
「…はあ…?あんたが、ぼくのおとこだったことないでしょう?」
「そーだった。まあ、ほら…きょうは、めいいっぱい風俗みてーなことたーっぷりしてやんぜ。だから、三擦り半でイったら、承知しねーから」

沢山おれに種つけセックスしてくれよ、レオ。
と、可愛らしく小首を傾げて言う台詞はあんまりだった。
あんまりだよ。
恋人なのに、なんだよそれ。
好き勝手に動いて命令して、僕は風俗行ったことないけどそんな事言うのかよ。
絶対違うだろ。
どう考えてもあんたがそういうプレイしたいだけだろ。
僕は普通の恋人がするセックスで充分なのに、どうしてあんたはそうやって僕の性癖を変な方向へねじ曲げるんだ。
実際、乗っかられて、服を脱がされてキスをされていくのが気持ちよくて、奉仕されるような手つきにたまらなく興奮してしまうからもう駄目なんだ。
どうしようもない。
僕はもうザップさん以上の身体を知る事なんかきっと、できないんだ。
この性悪な身体しか、知らなくたっていい。

「今日はレオくんだけの風俗嬢になってやるってんだよ、泣いて喜べ早漏童貞な、おれのかわいい恋人ちゃん❤」




あんたは俺の
かわいい娼婦





ほんとあんたは、俺の可愛い娼婦だよ!

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