本棚5

□moon river
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おんりーあぺぱーむーんを読んだよ記念。絶対に誰か使うだろうけど、やっぱりムーンリバーはいいよねぇ〜って言うあれ。
小説版のネタバレ満載で、十年後の捏造しておりますゆえにご注意くださいませ。














あれから色々考えて、最低でも十年生きようと思う事にした。
十年後の自分、の、偽物が目の前にやってきて、いや十年後の敵がやってきて、死にそうになって。
結局俺のガキでもなんでもなかったガキんちょの誤解を解くためにも、十年は生きなければいけない。
それに、レオが十年後も一緒に居る気でいやがるから、じゃあ仕方ねぇなって思ったんだ。
陰毛頭様がそれはそれは嬉しそうに、十年後の俺らってどんな感じなんでしょうね、って言うから。
本当に仕方なく、真面目に生きる努力をすることにした。
今までの俺はいうなれば快楽主義ってやつで、その日をあるがままにそのままに。
ここで死んでもまず文句の言いようもないほどに、清々しく自分のしたいことをしたいように。
女に刺されて死んじまうのも、巻き込まれて死ぬのも、まあその時はその時になって考える。
死にそうになった時に死んじまっても仕方ないなっておもうか、おいおいまだ死ぬには早すぎるだろ勘弁してくれよ神様よぉ、って思うかはわからねぇ。
わからねぇからこそ、やりたいことを気の向くままに。
未来の話はわからないはずだった。
それこそ一秒先すらも。
だから、十年後も一緒にいるというレオの想像は、俺にはかなりとんでもない想像だ。
意味がわかんねぇ、なんでもお前と十年後も一緒にいなくちゃいけんぇんだよ。
十年後一緒にいるならこんなにちんちくりんなやつよりもボインなねえちゃんとベッドがいいに決まってるだろ。
なんて言ってやってもいいんだけど、珍しくなんつーの。
アンニュイ、とか。
センチメンタル、とか。
そういうやつに陥っていた俺は、うっかりと否定する事もしないまま日々を過ごしてしまった。
十年、最低でも十年は生きる努力をしようと思いつつ。
一秒後死ぬかもしれない生き方ではなく、十年後まで生きて行く生き方を。
そう思って、思いつづけて、十年。
思ったよりも早く過ぎ去った十年だった。
十年経ってもヘルサレムズ・ロットの現状は変わらず、俺達の日々はそのまま。
争いは毎日起こるし、人類も異界もまるで人口密度は変わらない。
小さな箱庭のはずなのに、どんなに死んでもまるで同じだけの生き物が湧いて出てくる。
あの例のガキんちょとは奇跡的に遭遇することが叶って、実に十年越しの再会。
しかし、当然なのだがあっちは俺達の事を覚えていなかった。
そりゃ、未来を変えたに等しい戦いだったんだ。
そういう未来も充分に考えられた。
多少色あせてしまった服は、迷ったが宅配で届けることにした。
ガキを作る予定も、隠し子が出来る予定も一応はない。
持ってても無駄だし、あれを選んだのはあの子供だけだ。
有るべき場所へ戻すのが筋ってもんだろう。
そんな手続きをしていたらザップさんも丸くなりましたね、って言ったのはレオだ。
馬鹿野郎、誰のせいだと思ってんだ。
って罵倒はすんでのところで飲みこんだ。
お前が理由だと言うのは、なんとなく癪だった。

「はあー…」

運送屋の受付を済ませ、街に溜息を吐く。
これで俺の十年は終わった。
今日から、俺の日々はまた一秒後がない日々に戻っていく。
さあて今日はどこに行って、何をして、いつおっ死んじまおうか。

「ザップさん」
「んあー?」
「月、見に行きませんか?」
「はあ?おっまえ、まだそんな童貞くさいこと言ってんのかよー」
「いいじゃないですか。今日はもう予定ないんでしょう?」

はいじゃあ決まり、と言って手を掴んだレオは止められたランブレッタまで連れてくると、メットを被る。
ハンドルを握ったって事は運転するってことだ。
今日もまた、十年前と全く同じようにセンチメンタル、とか、アンニュイ、とかになっていた俺はうっかりニケツしてしまう。
メットを被ってレオの身体に体重をかける。
それをまるで意に介さず、平然とエンジンをかけてハンドルを切る。
昔だったら重いんですけど、ちょっとどいてください、事故ったらあんたのせいですからね。
なーんて文句を一つや二つや三つは言ったのに。
俺の身体なんて、重さを感じないほどにレオは体格に変化がでた。
俺よりタッパが伸びたなんてことはないけれど、ガキみたいだった背丈よりは随分と成人っぽいだろう。
それでも、俺と並べば弟に見られるほどだ。
宅配を出した時はすでに夜の七時を過ぎていた。
ランブレッタを走らせて三十分ほどだろう。
そんなに広くないこの街で行ける場所など限られている。
今さらだけど、どこに行くのか尋ねる。

「港に向かってます」
「はあ」
「今日、風が強いから霧が薄くなるらしいんですよ。少しは月が見えるって天気予報で言ってました」
「はあーそりゃまた童貞くんが考えそうなデートプランだわーザップさん吐いちゃいそうだわー」
「吐いてもいいですけど背中にはやめてくださいね」
「うっわひっでぇ」

とてもじゃないけど恋人に言う台詞かそれ、って言葉が何故か喉から出てこなかった。
この十年、俺はレオとセックスをした。
十年間、一年に何回かはわからにけど半分以上はしているだろう。
それぐらいにおんなじ夜を迎えて、おんなじ朝を迎えている。
そうしていくのもレオが十年後を共に過ごしたいと願っているからだ。
そのためだけに、俺はこの十年生きた。
今日から、俺は一秒後の未来もわからなくなる。
だとすると、俺とレオの関係も恋人なんて可愛いものだと言えるのかわからなくなった。
十年経った。
これでレオが満足だっていうなら、それでもよかった。
十年は一緒に居られたのだ。
ほどなく港に近くなり、潮の匂いがする。
少しずつ速度が落ちて、ついには止まる。
足を下ろしてバランスを取って、顔を上げた。
薄い灰色の霧の奥に黒い夜が透けて見える、ぼんやりと月が光っている海。
立ち上がって眺めているうちに、キーを引っこ抜いたらしいレオが手を差し出してきた。
その手にメットを預けると、ひとまとめにして片づけられた。
手慣れた仕草の一つ一つに、やっちまったなぁと思う。
随分と、互いの仕草の意味を理解し過ぎてしまった。
言葉にしなくても相手が求めることをなんとなく理解してしまう。
十年ってのは恐ろしい時間だ。

「うおっ、風ほんっとやべーなおい」
「あーですね…」
「こりゃデートどころじゃねーだろ。お前、次にデートプラン組む時は気を付けろよ。スカートの中見る為だと思われたらビンタじゃすまねーぞ」
「…なに言ってんです?」
「あ?」

何言ってるって、人語喋ってるつもりだけどわかんなかったのかこいつ。
ぼうっと青白い光が見えて、あ、こいつ目開けてやがるって思う。
青々と光る義眼が、真っすぐに俺を見ていた。
おいおい、月がみてーって言ったのお前だろ。
見なくていいのかよ、せっかくの薄ガラス越しの月が見れなったなんて文句言われても俺は知ったこっちゃねぇぞ。
その全部が言葉にならないのは、レオの目があんまりにもおっかねぇ色しているからだ。
そうに決まっている。

「次のデートも、ザップさんを連れてきますよ。その時スカート履くんですか、あんたは」

ああなるほど、ほるほどね。
そういうことね。
そりゃあまあ、そうだよな。
スカート履くのは、女だけだもんだ。
葉巻を咥えて火をつけようとしたけど、強風で上手くいかなかった。
仕方なく舌打ちをして、咥えるだけで我慢する。

「俺がスカート履くわけねーだろ」
「だったら、……ねえ、ザップさん。約束しましょうよ」
「唐突だなオイ」
「十年」

葉巻を咥えた唇が震えて、不自然に葉巻が揺れたのが視界に映った。
やっちまった。
もろに動揺が出てしまったのが腹立たしくって、口から葉巻を離すけどいまさらだろう。
レオは相変わらず義眼をさらけ出して、けれど今度は穏やかな声で言う。

「十年、一緒にいる約束をしましょう」
「……いたじゃねぇえか。十年」
「今日からの、十年です」

今度は隠すことなく目を見開いた。
レオが気付いてることに、心底驚いた。
こいつがそんな仕草や口ぶりでいたことなんか、あっただろうか。
いや違う、気付く気付かないじゃないんだ。
こいつは最初から、俺と十年いるつもりだったんだ。

「今日からの十年、約束しましょう。約束、してください」

おもむろにレオがポケットに手をやる。
まさかと思ったけれど、次に手を出した時に握られていら小箱には笑ってしまうかと思った。
テンプレート過ぎるだろ。
なんだよそれ、今時そんなのするやついるのかよ。
銀の輪っかが仕舞われた小箱を持って、レオがはにかむ様に笑った。

「十年貯めた分ですから、結構いいやつです。あ、換金しないでくださいよ。フルネームで名前彫ってありますからね、恥ずかしい想いするのはあんたの方ですからね」
「おまえ…馬鹿だなぁ。そんなの、それこそおんなにやれよ」
「馬鹿はあんただ。僕が……十年、好きでもない人とセックスするような人だと思ってたんですか。あんたとは違うんですよ」

息が詰まる。
風が強いからだ。
吹きつける風が強くて、呼吸がうまくいかないからだ。
そうじゃなきゃ、漏れそうな嗚咽を抑えているのがばれちまう。

「おまえそれ…恋人に指輪贈る時の台詞じゃねーだろ」
「ザップさんに正攻法の台詞が通用するとはおもってねーんすよ。十年一緒にいるんすから」
「ははっ、そうだな。十年、十年か…なげぇなあ…」
「そうっすよ。長いんですよ、十年。だから、その長い十年を生きてくださいよ。そんで、俺と十年後、結婚してくださいよ」
「ええぇ〜…そんときおれ四十四歳だぞ行き遅れちゃうじゃーん」
「じゃあ今、します?」

男同士じゃ結婚できねーよ、って言いたい所だったがレオの声があんまり真剣だった。
そして、アンニュイとか、センチメンタルとかだった俺はやっぱり、うっかりと絆される。

「十年後にしとくわ」

その言葉を聞くのと同時に、どろっと溶けるようにレオが笑う。
義眼が細くなって、いつも見る間抜けな顔になる。
霧越しの月明かりでも頬を暖かそうに染めたレオに、嗚呼まったく仕方ねぇなぁと喉の奥で笑う。
しかたねぇ、ほんとにしかたねぇや。
また俺は十年、死なないように生きなきゃいけねぇんだ。
めんどくせぇなぁ。

「あ、ザップさん!見てくださいよ!海、道出来てしますよ!」

レオが指さす先には、強い風に波を高くする海に月の光が一本道を作っていた。
月の光は弱々しく、波が高くなればすぐに途切れるような些細なものだ。
しかし、確かにレオの言う通りに道のようだった。
嗚呼、渡ってあっち側に行けちまいそうだ。

「あはは、あっち側に、渡っていけそうですね。ザップさん」

ほら、そういう曲がありませんでしたっけ。
というレオの言葉は遅れて聞こえてきたようだった。
まるっきりおんなじことを考えている方が、俺には衝撃だった。
マジもう、ほんとしかたねぇなぁ。
きっとまた十年後、俺達は十年の約束をする。
絶対だ。








moon river








moon riverは結構和訳でいろんなのがあるけど、劇中でオードリーが歌ってるのについていた日本語和訳がしっくりくる話になりました。https://www.youtube.com/watch?v=vnoPke8tlAs

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