本棚5

□唇にするキスは魔法を解くという噂
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アニメのみの設定で、人型になろうとするきっかけを考えてみたはなし
未来捏造注意
高校生になっても見えてるケータくんと喜んで欲しくて今更だけど人型になってみたウィスパーの話
描写はほとんどないけど擬人化注意





子供の頃にする妄言は大きな問題にはならないものです。
小さな子供が空想を嬉しそうに話すことは珍しいことではないし、物心ついたばかりの子供が大人には見えないモノを見る事は稀にある。
ケータ君はまさしくその類でありました。
大人に見えない物が見える素質のある子ども。
今でこそ妖怪ウォッチがあるために、様々な妖怪を見て会話をして触れることができます。
ですが、ケータ君は素質があるだけで、目を見張る程の何かがあるというわけではございません。
妖怪を祓ったり、見えたことで何か霊力的な事で影響を与えたり。
そういったことは一切できないのです。
しかし、私の姿が見えてしまった。
出して欲しいと訴えかける声に応えてしまった。
優しい、とても優しい子供なのです。ケータ君は。
どこの誰ともわからない、姿だってなかった声に応えてくれた。
話してみれば昨今の子供らしく少々現実的でドライな反応をされてしまい、ここ最近になってもまだ私に対する風当たりが強いようにも感じますが。
とても優しい、勇気ある子供。
そんなケータ君も気が付けば中学などとっくに卒業して、高校生になっております。
高校受験だと大騒ぎをしていたのが昨日の事のように思い出せるというのに、月日の経つのは早いものです。
大人やクラスメイトの前で、私たち妖怪に不用意に話しかけてしまう事は随分と減りました。
それでも時々、本当に時々ですが、うっかり話しかけてしまう時がございます。
気が抜けている時や、外出をして歩いている時。
他人と同じ空間を共有していると感覚が薄い時、周りから見ればヒトリゴトは出てきてしまうのです。
それは私やジバニャン、その他大勢の友達がいるからです。
ですから、私たちがいなければいいんでしょうけど、そうするとケータ君は嫌そうな顔をして私のしっぽを強く掴んで抗議します。
道を歩いている時、すれ違った人が怪訝な顔をして振り返っているのをケータ君が気づいていないはずがありません。
人の変化に敏い子です。
それでも、変わらずに私たちに話しかけて、私がどうしようかと返事をしないでいるとむくれた顔をしてくるのです。
結局、ケータ君が人々の好奇の視線にさらされるとわかっていながらも、私は返事をしてしまうのです。
つい、つい、返事をしてしまうのです。
甘えてしまうのです、ケータ君に。
私の方が何百歳も年上で、私の方がずっと大人のはずですのに。
どうにかケータ君が、せめて普通の人らしく生活できるようにと考えて思いついたことはいまさらと言うべきか。
人の姿をしていれば、外で喋っていても問題がないと思ったのです。
我々の本当の姿は見えずとも、人の姿をしていればケータ君の独り言が独り言でなくなる。
いつまでも変わらずにおしゃべりができる。
そう思ったのです。

「…誰?」

善は急げということで、昔に人の姿をしていた時のまま、服装だけ燕尾服にして学校から帰ってくるのをまっていました。
そして帰ってきて第一声がこれです。
ええ、そうでしょうとも。
そりゃあ、帰ってきて部屋に見知らぬ人がいたら言う第一声としてはあっていますけど、燕尾服ってとこでなんとなく気付いてくれてもいいではありませんか。

「私ですよケータ君!ウィスパーです!」
「……え?」
「どうでうぃすか!これなら、お外で一緒にいておしゃべりしてもなぁんにも問題ないと思うんですよね!」

いつもは見上げていたケータ君を見下ろすようになってしまって、新鮮ですね。
そして、いつもの癖で顔を寄せたら、ぎょっとした顔をして距離を取られてしまったのは、どことなくショックでした。

「あれ…いやですか?」
「嫌っていうか、さ…なんで今さら、人間の格好しようとなんて…いや、時々それっぽい感じはしていたけど、顔だけは変えなかったじゃん。なんで」
「ええ?嬉しくないですかケータくん…」
「嬉しくない」

ハッキリと告げられた事実に、表情が固まるのがわかりました。
なんてことでしょう。
私は、どうやらケータ君の望む答えが出せなかったようです。
なんという、私はただケータ君に喜んで欲しかった、ただそれだけだというのに。
どうにも上手くいかないモノです。
仕方ないですね、やはり私は妖怪で、ケータ君の気持ちを完全に理解することは出来ないのです。
ええ、それは一生。
ケータ君が死んでしまう、その一生涯を知ることは、きっとできないのです。

「……あのさぁ、ウィスパーって本当にバカだよね」
「うぃす?!」
「オレはさ、ウィスパー。全然知らない人になんか言われたりとか、皆にかっこよく見られたいとか、そういうのはもういいんだって」
「でもっ、ケータ君。変な目で見られて、…私は嫌ですよ、ケータ君」
「ウィスパー、好き」
「…は…?」

予想もできなければ、理解も出来ない言葉の数々に目を丸くするしかない。
どうしたらそんな事を言う流れになるというのですか。
ぱち、ぱち、ゆっくりと瞬きをしているうちに、顔を寄せられた。
随分と青年に近づいてきたけれど、丸くてぱっちりとしたお目目が、真っすぐに私を見てました。
強い視線ですね。
嗚呼そうです、私はこの目が大好きなんです。

「オレ、いつものウィスパーを見て好きだって思ったんだよ。だからさ、わざわざそんなことしないでよ。全然知らない人のために、姿変えたりなんかしないで」
「いいのですか…だって、私は女の子じゃないですよ…女の子には、なれませんよ」
「もぉ…そんなのどうでもいいからさ!好きなの!嫌いなの!?」

頬を挟まれて、強引に顔を覗きこまれる。
もう逃げられないと悟るのに時間はかかりません。
目頭が熱くて、視界がぼやけてきます。

「す、すきですよぉ…ケータくん、あなたが、わたしはだいすきなんです…」
「なら、いいじゃん」

ぼろ、ぽろ、涙は落ちてしまったら止まらなくて。
さらにケータ君が、躊躇いもせずキスなどするからなおのこと。

「あー…うん、でも。人間もいいかも…」
「な、なんですか急に…」

見上げてくるケータ君が頬を染めているのを見つけて、つい嬉しくなる。
しかし、先程の発言を覆すような言葉にはついていけない。
どうしてまた急にそんなことを。
再び不意を突く様にしてキスをしてきたかと思うと、今度は子供の顔をして笑って言ったのでした。

「うん、ちゅーしやすい感じがする」






唇にするキスは魔法を解くという噂




運命の執事

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