本棚5

□無自覚なんて質の悪い
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アニメのみの設定で



新しい物は好きだ。
さらに言えば、美しい物は大好きだ。
僕に勝る美しい物は滅多にないが、目を引かれる物はすべてが美しい。
親方様も、美しい。
見た目は僕と同じはずなのに、親方様の姿には気品があると思う。
美しく、妖艶で、綺麗。
上級キュウビになればあの美しさを僕も纏う事が出来ると思うと、キュン玉集めにも気合が入るというものだ。
神格としての箔もつく。
僕らキュウビは神の使いとしての一面と、人を食う悪鬼の二面がある。
さくらニュータウンでの僕らは神格。
見習いの身分でも、他の神格が入ってくると分かるのだ。
なんとなく、この街に自分とは違う、親方様とも違う、別の神格がいることを。
縄張り意識というと粗野な雰囲気になってしまうけど、町の境界線を超えて入ってくると肌で感じるのだ。
神格は人間に崇め、湛えられて力を得る。
何らかの理由で住処を奪われた神格は、存在する居場所を求めて他の神格のいる場所へやってくることがある。
奪いに来るのだ。
存在理由を。
親方様に害をなすものではないかと思い、真っ先に駆けつけて姿を見つけたら、思わず笑ってしまった。
どう見ても追い出された狛犬だ。
小さな姿を見れば大した力はないのは一目瞭然。
これならば親方様の迷惑になることはないだろうと思ったのに、何故か不思議なことに狛犬は人の社会に馴染んでいった。
対して変化も上手くない、むしろ下手くそなのに。
どうやら年だけはそこそこいってるみたいだった。
人型は青年の姿で、混じって仕事をする姿は大人に近い。
けれど、ふるまいは僕より子供っぽいからまた笑ってしまう。
僕よりは百年は年が上なのだろうけど、所詮は狛犬。
化けることに関しては狐には勝てない。
だから僕は見下していたのだ。
彼を。
コマさんを。
「君、狛犬でしょ?」
弟らしい一人がいなくなった時を見計らって後ろを振り向いた。
今最も妖怪の間で人気がある時計の新作発表だというので、一目見ようと行列に並んでいた時だ。
覚えのある声が後ろからして、すっかり暇を持て余してしまった僕は暇つぶしのつもりだった。
小さな体で、丸い目をさらに丸くさせて手をわたわたとふって彼は驚いていた。
「ズラ?!どうしてオラの名前を知ってるズラか?」
「君の名前は知らないよ。でも、君が神社の狛犬だった事は分かるよ。僕は九尾だからね」
口元に弧を描いて言う。
話して見れば益々可笑しい。
こんな奴が居た神社など、どうせ小さな神社で、人が来なくて取り壊されてしまったに違いない。
「はぁ〜、都会の妖怪さんはもんげー綺麗で凄い力を持っているんズラな〜!オラ、関心したズラ!」
「…はあ?」
お上りさん、どこの田舎から出稼ぎに来たんだい。
って、言ってやろうとしたのに、予想をしていなかった言葉に何も言えなくなってしまった。
何を言っているのだろう、変なの。
手放しに人を褒めるなんて、しかも僕らは初対面だっていうのにさ。
意味がわからないよ。
怪訝な顔をしているだろう僕に構わず、彼は言葉を続ける。
「キュウビはもんげーめんこいズラなぁ。オラ、こんなにめんこい人と会えるなんてとってもラッキーズラ」
コマさんの小さな手が、照れたように頭をかくのを見下ろす。
なんとも間の抜けた顔をして笑っている。
なんてことだ、彼の顔を見れば見るほど、嘘が見当たらない。
黙っているのも癪に障ったので、苦し紛れに言い返すのはあまりにも月並みな返事だった。
この僕が。
「…そういうのは、可愛い女の子に言う台詞ですよ。コマさん」
「ズラ?でも、キュウビがもんげーめんこいのはほんとズラよ?」
「ッ…もう、いいです!」
「えぇ?オラ、なんか変なこと言っちまったズラか?」
「本当に、もういいです!」
顔を背けて、そのまま背を向ける。
後ろではまだ何か言っていたようだったけど、それも全部を無視した。
困ったことに、コマさんの言う言葉の全てはお世辞と言うには真っすぐだった。
なんてことだ、この僕が言いくるめられて、何も言えなくなってしまうなんて。
可愛いと言われて、嬉しいだなんて。
「ばかみたい…!」
動揺している僕も、馬鹿みたいだ。




第27話の並んでいるのが前後だったのにテンションあがった結果

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