本棚5

□肉の器
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欲望を持てあます色欲じじいな獅子三日
若干のモブ三日表現有の非処女三日月




肉の器を持て余している。
天下で最も美しいと称されているためか、与えられた肉の器はなかなかの美丈夫であった。
自画自賛というよりは、客観的な感想であった。
中身はただのじじいなのに、随分とまあ、身の丈に合わぬ。
元来おっとりとした気性である自覚はあったが、自由に動ける青年の器で、その力を持て余している。
とはいえ、戦場に出るのに老体ではそれこそ心もとない。
小狐丸や岩融のようにひょうひょうと年齢など関係ないと振る舞えばいいのだろうが、どうにも。
どうにも持て余す。
獅子王や石切丸のように割り切ってしまえば良いのにとも思うのに、どうにもままならない。
面映ゆい。
そんな中、審神者殿に花街を勧められた。
男の身体では何かと要りようだろうからと、潤沢な金を与えられて。
知識としてはよくよく見知っていた行為であったが、それが自分に関係する行為であると言う自覚はなかった。
魂と器の繋がりが希薄なのか、想像はしても欲は湧きあがらなかった。
本丸の外は山々に囲まれているが、少し下りれば町がある。
食材や必要物品の調達は主にここで行われる。
町は室町から戦国、果てには近代までの時代が混ざり合っていて不思議な町並みをしている。
建物や人の服装は室町が多いが、店の中や建物にはカラクリ機械に、エレキテルを使った物まである。
人も人の形をしているが、気配が違った。
恐らく、我々を拘束する為に作られた小さな箱庭の様なものなのだろう。
これほどのものを作れることに時代の移り変わりを実感し、生まれた時代が遙か彼方へ行ってしまった。
それでも、色というのは変わらない欲望なのだろうな。
気は乗らなかったが、勧められた手前もあって夜半に赴いた。
男女のどちらも選べると言うので、戯れに男を選んだ。
気まぐれで、戯れであった。
それに明確な理由は無く、衆道の交わいもあると知っていたので、なんとなく。
そこで、戦場で知る昂揚とは異なる感覚を知った。
思考を奪われる雷の奔流。
鉄になり、火に炙られ、打ちすえられる。
まさしく刀を持つことのそれに近いと思った。
燃える熱で穿たれる行為は、血を見るより遙かに満たされた。
肉の隙間を埋めるからだろうか。
しばらくは器を持て余すことはなかったが、それも長くは続かなかった。
すると、まるでその内実を見計らった様に獅子王と恋仲になった。
鵺の誉れの男は、小さき身体におさまり切らない激情を携えていた。
その劇場が、良いと思った。
戦場を楽しみに、刀剣の本分を謳歌する獅子。
発散されたない激情が、身の内に巣食っていることはすぐに理解した。
つまるところ、獅子王は俺と似ていたのだ。
主に対しての興味が薄く、無関心ですらあり、目の前の激情を持て余している事も。
腹の底でくすぶらせている事も。
獅子王も齢は同じほどだから、知識として交わいは知っているのだろう。
その行為による、雷の眩しさをまだ知らない。
「…みかづき……?」
口吸いをしながら、獅子王の腿へ手を這わせた。
行動の意味を聞く口にまた吸いついて、柔らかい唇を舐めながら手を内側へと動かしていく。
触れたままの唇が震えた。
声が引きつる様な音が聞こえて、自然と口元が緩む。
初心な姿には笑みを浮かべてしまうのは、年長者の悪い癖だ。
足の付け根、欲望の場所を撫で上げると肉が震える。
吐息が漏れる。
色欲が湧きあがる。
「獅子王、今夜。俺の部屋へ」
耳に吹きこむと、小さく頷くのがわかった。
嗚呼、色を教え込む事の背徳の、なんと愛おしいことなのだろうな。




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