本棚2

□喉仏を食い破る恋
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「デュラハンって知ってる?ディオ」
「アイルランドの妖精だろ」
「なんだ、知ってたの」

読書の合間に、何を思ったのかジョジョが持ちかけた声に、話半分に返事をする。
行儀悪くベッドに寝っ転がっているジョジョを見向けもせずに、視線はそのまま本の上を滑る。
ジョースター家に来てから四年の歳月が経とうとしていた。
その中で、ジョジョとはなんとか折り合いをつけて、今では一緒部屋で過ごすぐらいには仲良くなった。
仲良くなった、というのは少しばかり語弊がある。
仲良くなる振りをすることにして、それをあいつも受け入れたと言う方が真実に近い。

「しかしな、あれは妖精ってよりはモンスターに近いだろ」
「うーん…まぁ、首ないんだものね」
「死を予言するだけじゃなくて血をかけてくるんだ、ゴーストより性質が悪いね」
「ディオは、ゴースト信じているの?」

ぴくり、軽やかな声に本から視線を上げる。
ようやく視界にジョジョを移せば、なんとも楽しそうな顔でこちらを見ている。
それで僕の弱みを握ったつもりかジョジョ。

「あいにく、目に見えない物は信じていない主義でね」
「でもデュランは知っていたじゃないか」
「知識としてだ。あれは創作のストーリーに近い」
「本当はさ、怖いの誤魔化すためじゃなくて?」

煽ってきている、というのはわかっていたけれど、湧きあがる蒸気の様な感情が溢れる。
怒りっぽいのは自分の欠点だと、わかっているのに。
バンッ、と本を閉じて、ジョジョを睨む。

「君…僕を馬鹿にしているのか?」
「そういうわけじゃないけど、君にも苦手な物があるんだなって、嬉しくなっただけさ」
「ふぅん?人の欠点を笑うなんて、紳士のすることじゃあないなぁ、ジョジョ」
「君だけだよ、こんな風に思うのは」

ジョジョが上体を起こしたため、ベッドが軋んだ音が響いた。
その音に合わせて体自体を起こして、ジョジョがこちらに歩いてくるのをじっと見る。
森の樅の木の葉を思わせる、深いグリーンの目とかっちり合う。
椅子に座ったままだと、近づけば近づくほど視線は上を向き、見上げる形になる。
肘置きにジョジョの手が置かれて、まるで椅子ごと囲われるように見下ろされる。
ただでさえ、最近身長に差がついてきたようで腹がたっているのに、こうも優位に立ったみたいな顔で見下ろされると親指を目に突っ込んでやりたくなる。
今度こそその目を潰してやろうか。
けど、存外その緑が気に入っているので止めてやる。
この僕の優しさに感謝して欲しいぐらいだ。

「へぇ?僕が、君の特別か?」

しまったと思ったのは、口に出してからだった。
僕とジョジョは、義兄弟だけど、ただの義兄弟ではないのだから。
腰を屈めて顔を近づけてくるから、緩やかに目を閉じる。
嗚呼くそ、その動作に慣れてしまった自分が腹立たしい。
ちゅっ。
触れるだけの挨拶の様なキスが唇に送られて、すぐに離れる。
物足りないなと思うけど、強請るのは癪だから喉の奥に押し込んだ。

「そう…僕の特別だよ、ディオ。君の事ならなんでも知りたいと思うほどにね」

僕とジョジョは、それよりもずっと可笑しな関係だったんだ。
世間で言われる恋人、されど露見すれば異端者。

「へぇ…僕がサロメのような無理難題を言っても、そんなこと言えるのか?」
「そこでサロメを例に出すあたり、君らしいけれど…もっとおとぎ話の例えはないのかい?」
「ホレおばさんの継母か?それとも…スノープリンスの義理の姉?」
「もう…どうしてそんなに、意地悪な役ばっかり…僕からしたら、それこそ…スリーピングビューティーなのに」

髪をかきあげるように頭を抱かれて、生え際にキスをされる。
顔中に雨のように降ってくるキスを受けながら、ジョジョの唇の間から零れると息に体が震える。
その奥、深くまで交わったことは、まだ一度もない。
僕に好きだと囁き、雨の様に際限なく与えてくるキスをする口に、もっとしてもらいたくてたまらない。

「ねぇ、好きだと言ってよ…ディオ」
「……顔はな」
「顔だけ?」
「…お前の身体も、好きにさせてくれるのか?」

腕をジョジョの首に回して、引き寄せる。
かくんと、体が下へと引き寄せられて、ジョジョがバランスを崩す。
そのまま、椅子に押し付けられるような体勢になって、二人分の体温が通常よりも熱くて、ぞくぞくする。

「それは…どういう意味なの…?」

ゆっくりと唾液を飲み込む喉が、いやらしく上下に動くのをよく見えた。
今すぐ、その喉に食らいついて、一人占めしてやりたい。

「どんな意味でも構わないさ、ジョジョ」

かぷり、喉仏を口の中に入れるように喉に噛みつき、そのまま口の中で舐め上げた。
まごくりと喉が動くのが、また強く感じた。
ほら、もういいだろう。





◆喉仏を食い破る恋◆





早く
早く
ほら











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