本棚2

□沸騰までの温度
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湯船から上がって髪を雑巾でも絞るようにして捻り、水滴を飛ばす。
タオルで軽く頭を拭いてから、そのタオルを浴室の床に敷いて腰掛ける。指を自分の口に押し込んで舌を絡ませる。人差し指と中指を二本束ねる様にして口の中で抜き差してまんべんなく唾液を纏わせる。根元まで咥えて十分に濡らした指を後ろ口にあててまずは中指を入れる。

「んっ…っ…」

ぐいと指をとりあえず中に押し込んでからゆるゆると動かして少しずつ少しずつ隙間をつくっていく。
大分指が自由に動く様になったら一度引き抜いて、今度は人差し指を添えて中に入れていく。
指の根元まで入ったら左手で蛇口を捻ってシャワーを出す。ぬるま湯になったのを確認してから手にとり、指が入りこむ後口に緩やかにあてる。熱に一瞬身体を震わせるが、指を第一関節の辺りまで引いて指と指を引き離して入口をおし広げるようにしてお湯を中へと誘い込む。

「…っ…んっ…」

中に入り込むお湯が奥まで入り込んでから逆流して排出される。
入念に中を満たしてから、お湯を吐き出す。
粗相を彷彿とするが、少しでも自分が楽になるように中を濡らして緩めておく。
決してあいつのためじゃなくて自分のため。

「くっ…はぁ…」

お湯を出し切ってため息を吐く。
どんなに回数を重ねてもこの行為が嫌で仕方ないが、巡り巡って自分に戻ってくるのだからと何度も言い聞かせる。
それならセックスなどしなければいいのだけど、毎回律儀にしてしまうぐらいには俺もあいつを好いているという事だと思うのだ。
それは言葉になんてした事ないけれど、けれども毎回ちゃんと風呂で慣らしているのは入れてるあいつが一番わかってるんだ。
言わなくたってバレているんだからわざわざ口に出す必要もない。
シャワーを止めて立ち上がりタオルを引き寄せる。
柔らかなタオルには母が洗濯した時にはしなかった柔らかな花の匂いがした。

「わざわざこんな匂いさせなくてもいいのにあいつは…」

豆なやつだ、と思いながらその世話焼きな正確が嫌いでもない。
結局慣れされてほだされているのだけど、それが拒絶できないほど。
一体どこを間違えたらこうなってしまったのか、皆目見当つかないが悪くない。
そう、悪くはないんだ。
良いとも言えないし悪いとも言えなくて、強いて言うなら悪くない。
けど、今のおれにはそれで十分であるように思えた。
適当に下着とシャツを羽織ってタオルを肩にかけて廊下へ出る。
その温度差に身震いをする、もう季節が夏から移っているのかと思うと光陰矢の如しとはこのことか。
年というのも馬鹿にできないと思いながらも、随分前から老化は止まっていた事を思い出す。
あまりにも普通の生活すぎて、起き上がった事を忘れてしまう。
寝室のドアを開ければベッドのヘリに座って辰巳が本を読んでいた。
これもいつも通り。

「や、おかえりなさい」
「ん」
「せんせい、ちゃんと頭ふかないと風邪引きますよ?」

目の前までいくとタオルを引かれて屈めさせられる。
すると子供にやるように、けれど優しく髪から滴る水を拭き取られる。
おとなしくているとぴたりと手が止まる。
どうかしたのかと顔をあげれば怪訝な顔。

「たつみ?」
「先生、どうしたんです?なんだかおとなしい…風邪でもひいたんですか?」
「おまえ…珍しく大人しくしてやればそれか」
「うん、やっぱりその方が先生らしくて好きです」

引き寄せられて近い距離そのままに額に口づけられる。
ちゅうと可愛らしいむず痒いバードキスにじれったくなる。
黒地のTシャツの辰巳の襟首を掴んで今度はこちらからキスをしかける。
額なんてもどかしい部分じゃなくて、見返りを求めて口元へ。
正面から軽く触れてつつけば薄く口を開けるので角度を変えて交わる。

「んっ…ふふ、本当に今日は先生おとなしいですね」
「うるさい…はやくヤるぞ」
「ムードないですねぇ」
「むーどぉ?」

辰巳をベッドに引き倒してやったのに軽々と体制は入れ替わってベッドに転がされる。
天井を背負ってこちらに苦笑いをこぼす辰巳にわざとらしく発音して聞き返す。
ムードなんて甘ったるいものが必要な関係でもないだろう。
そんなもどかしいものはいらない。

「そんなもんより、もっと必要なもんがあんだろ?」
「なんですかねぇ?」
「わかってるくせに」
「先生こそ、今日はおとなしいんでしょう?」
「…チッ…」

揚げ足を取られて舌打ちをするが、たしかに今日は自分でわかるほど機嫌がいい。
少しぐらいはこいつにいい目を見させてやってもいいかと思う程度には、気分がいい。
首にわざとらしくゆっくりと腕を回して、ひとこと。

「キスしてくれ」

しまりのない顔をして辰巳は笑う。
その顔が腹がたって憎まれ口でも言ってやろうとするが、それより先に嬉しそうな声で。

「仰せのままに」

なんて言われてキスをされてしまえば口は開けない。
辰巳から降ってくる舌を絡めてくる卑猥なくちづけを受け入れながら、これが半永久的に無限に続くのかと思うと。
それはそれで悪くはないと思ってしまうのだから、悪い傾向だ。
けれど改める気はさらさらないのだけど。
ずぐりと腰が熱を求めて揺れた。







■沸騰までの温度■
(生ぬるいそれでも十分)













優しくて穏やかなエロ
というのをお題としていただきましたのでこっそりと
エロい…だろうか…

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