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□サーカス・ギャロップ自動演奏ピアノのための
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ぽくもん
下上
「サーカスギャロップ自動演奏ピアノのための」
コピー本12P
¥100
ぺらっぺらの薄いクダノボ
変形本になっておりますご注意ください


本文サンプル


カチッ。
 目の覚めるような思いがして顔を上げる。そうすれば、目の前にはもう一対のソファがあって、いつも通りの自宅の風景が広がっている。そこからさらに上へと視線を滑らせて、壁に掛けられた時計を見れば、三時。
「おや…随分経った気でしたのに」
 ぽつりと言った何気ない言葉が、リビングにいつも以上に響いているように思えた。
 読みかけていた本へと再度、視線を戻してみたものの、どこまで読んだか思い出せない。むしろ、先ほど意識が浮上するまで、本当に本の内容を追っていたのかすらあやしいほどに、開かれているページの文章には覚えがなかった。
 テーブルに置かれたままのマグカップを口元へと寄せて、飲み込む。案の定、冷めたコーヒーはとうの昔に風味も飛んでいて、お世辞にも美味しいとは言い難い。
「調子が、出ませんね…」
 溜息を吐く。
 すると、また部屋の空気が寒々しいものになったように思えた。

「出張、でございますか?」
 手渡された書類に目を通していると、通達事項の中にある書類に思わず言葉が詰まる。出張なんて、私達がサブウェイマスターになってから一度もなかったのに、どうしてまた。
書類を持ってきた主を見上げれば、相手も同様に肩をすくめてため息のような言葉で返事が返ってくる。
「俺が知る限り、過去に出張命令が出た覚えはありませんよ。あれじゃないですかね、ロケット団に一度うちもやられたじゃないですか」
「ええ、不本意ですが」
 苦々しい思いで、唇を噛む。不本意ながら、私たちが管理する以外の列車を走らせて、あまつさえお客様に不便を強いることになってしまった事件は、まだ記憶に新しい。あの事件は、確かに私たちの管理体制の甘さを指摘される事件であった。
 書類を持ってきた主であるクラウドさんが、またため息とともに答える。
「俺も不本意っすわ。あんなにコケにされて、黙ってられない…ともかく、アレの事を考えて他の地方の運行方法や警備対策を学んでこいってことだと思いますよ」
「そうですね…二度とあのような事を起こさないためにも。しかし…この出張、一人と書いてあるのですが…」
「そうなんですよねー…」
 出張命令の詳細が書かれた書類には、出張に行く者は一名と書かれており、サブウェイマスターと指定がされている。つまりは、私かクダリのどちらか一人だけが、行かなくてはいけない。
「行くなら、やはりクダリでしょうね」

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