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□天下を取る獅子の話
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また、行方不明になった。
らしい。
三日月がいなくなった、らしいのだ。
遠征から戻ってみれば、五虎退と前田藤四郎に門の所でいきなり泣きつかれた。
五虎退が半泣きで言うには三時のおやつにしようとしていたらしく、前田が言うにはお茶を入れてくるといって一刻戻ってないらしい。
またか、と即座に思ったので、とりあえず報告を陸奥守に任せ、泣きじゃくる五虎退をあやして、泣き出しそうな顔をする前田を慰める。
益々泣き始める五虎退に、感化されて涙を滲ませ始めてしまった二人をなんとか落ち着かせた。
それから邸内を探し始めたのだが、何故か見つからない。
邸内は驚くほどの広さはないのに、何故か三日月の姿がないのだ。
オレとそんなに年は変わらないはずだが、三日月はおっとりとした雰囲気に加えて方向音痴のけがある。
機動力は決して悪くないが、如何せん。
今で言うマイペースというやつだ。
すぐに迷うので、誰かが一緒にいないと邸内でも居場所がわからなくなる。
大体は総出で探すからすぐに見つかるし、今回は茶を淹れに行ったので行路は限られてる。
それなのに、姿がない。

「くっそー…!徘徊するにしても、じっちゃんのがまだマシだったな…どこいったんだよ…」

廊下を小走りに、勢いのまま曲がる。
と、同時に目の前に人が現れて大慌てで足を止めるが、勢いのついた足は簡単には止まってくれなかった。
間に合わない。

「っ!」
「うあ?!お、あ……!!」

視界の端に青色の狩衣が見えて、咄嗟に腕を伸ばす。
急須を持ったままよろけそうになった人物の肩を掴んで、受け止める。

「あっ、ぶね……!」
「おお……獅子王。おかえり、存外早かったなぁ」
「ただいま…じゃ、なくて!お前、五虎退と前田が探してたぞ。なんで茶を淹れるだけなのに一刻もかかってるんだよ!」
「ん?そんなにかかってしまったか、参った……二人には心配をかけたかな?」
「五虎退泣いてたし、前田も責任感じて泣きそうだったぜ」
「申し訳ないことをしたな……よし、じゃあ早速二人の所に戻ろうかね、獅子王」

そう言うと、三日月は体勢を直してオレの手を掴んだ。
そのまま手を握ると、至極当然な顔をして待っている。
動く気配はないし、にこやかにいつものおっとり顔で急須を持って立っている。

「……俺が案内するの?」
「駄目か?俺はどうやら、迷ってしまったようでなぁ…悪いが、連れていってくれると嬉しいよ」
「迷ってる奴が言う台詞じゃないぜ…それ」
「はっはっは、じじいの戯言だ。許してやってくれ」
「年、そんなにかわんねぇだろうが……まあ、どっか行かれてまた探すよかマシかな…わかったよ」

手間を考えれば、このまま別れるよりは連れていく方が確実。
この後に、三日月一人でちゃんとたどり着けるかは不明。
それなら、オレにできるのは一つしかない。
連れていくという選択以外は、ほとんどないようなものだな。

「ふふふ、お前は優しいな。獅子王」

そう言って、また笑う三日月はいつもと変わらない。
でも、こんな風に手を繋いでいたら、オレたちは恋人みたいに見えてしまうのか。
ヒトがするような、菓子のような秘め事をする、恋人に。

「おや……随分と、手が熱いが大丈夫か?獅子王、手入れに先に向かった方がいいんじゃないか?」
「……へーきだっつの…」
「そうか?ならいいが、無理はするなよ。昔馴染みが居なくなるのは、やはり寂しいものだからな」

普段は気づかないくせに、なんでこんな時ばっか気づくんだよ。
顔が熱い。
触れる手から、溶けそうだ。
このまま、手から溶けて、三日月と混ざって、一振りの白刃になってしまう。
小さな自分とは、どうせ三日月には釣り合わないのだろうとわかっているのに。
ままならないな、ちくしょう。




無糖氏の獅子三日絵の前後を埋める獅子王×三日月宗近の話。

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