本棚4

□炬燵にて
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「迅くんアニメ好きなの?」
「…………あ?」
後ろから抱きつくようにもたれかかってきた新開が、なにを言ってるのかわからなかった。
炬燵に広げたノートは、自分たちが受験生だということを明確に示唆してくるが、後ろの新開は軽快な音を立てて菓子を貪ってる。
腹が減るから止めろって言ってるのに、あったかくて好きなんだ、いいだろと言ってまるで止める気配がない。
「ん」
チョコレートのかかった棒菓子を差し出されたのでとりあえず食う。
飲み込んでから首だけ振り向いて聞き返す。
「で、なんの話だ?」
「いや、だってさ。迅くんが歌ってたのアニメの主題歌だろ?」
「え、オレ……歌ってた、か……?」
思わず口を押さえる。
苦手な科学だったからしばらく新開を放って集中していたが、どうやら無意識に歌っていたらしい。
しかも、アニメと言われたらあれしかない。
「うん。ヒーメヒメって。…あれ、もしかして無意識?」
「あー………やべえ……まじやべえ…直す…ぜってー直すわ…」
「好きなら別に直さなくてもいいんじゃないかい?」
「好きじゃねーよ!あー…あれだ…ほら、一年の小野田」
「ああ、あの眼鏡くん。そういえば真波が言ってたなぁ。なるほど、彼の影響かい?」
「まあ…成り行きでな」
「へえ」
なんとなくきまりが悪くて正面を向く。
すっかり温くなった湯飲みを煽って、急須をとる。
湯を足そうと立ち上がって、ついでに新開に新しく茶でもいれるかと考える。
「おい、お前も茶のむ、かっ、あぁ?!」
言外に体離せと言おうと体を捻る、と同時に首に腕を回され、そのまま強く引き寄せられる。
がんっ、湯飲みがテーブルに転がって、炬燵布団に落ちる音がする。
体をぶつける前に手をつくと、相変わらずのにやけた顔で笑う新開が横たわってる。
「あっ、ぶねーな!」
「なんだか、悔しいなぁ」
「あぁ?んだよおめぇ…」
「だって、思わず鼻歌で歌っちゃうぐらい彼の声が耳に残ってるんだろ?」
「声っつーかリズムな…ったく、なんだよ新開…」
「嫉妬、かな?なあ迅くん」
「あぁ?」
「なあ、俺の声だけ耳に残してくれないか?たくさん声、出すから……な?」
ぐっと腕に力を入れられて引き寄せられる。
やべ、と思ったけど逃げるより早く新開の足が腰に絡む。
炬燵の熱以外に、熱いのが沸き上がってくる。
思わず舌打ちをした。
「………何度も言うがよ、おれはノンケだぞ」
「ははっ…ほんとうかい?迅くん。おれは、迅くんだけだよ」「…………おれだって、変な気起こすのおめーだけだよ、新開」
厚めの唇をまた嬉しそうにゆるませて、ねだる視線に煽られる。
どうしてこうなっちまったんだと思いながら、息を止めることにした。



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