本棚4

□恋する小さな天使様
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出会いは、病院だった。
靖友お兄ちゃんとの出会いは、病院のロビーだった。
そんなに大きくない個人病院での定期通院の時だった。
かかりつけの一番近所のおじいちゃん先生に、今月はもう発作が起きてないと言う報告と今の身体の状態を確認しに来ていた。
土曜日の午前中、普段は混んでいる時間だった。
その日は、本当に珍しく人がほとんどいなかった。
お母さんは先生と長い話をするからって言って、僕は待合室で携帯ゲームをしていた。
そこにやってきたのが靖友お兄ちゃんだった。靖友お兄ちゃんは一瞬僕を見て止まってから、待合室の長椅子に座った。
それが僕と靖友お兄ちゃんの出会い。
あまり近所にはいない高校生ぐらいの人がなんとなく珍しくて、じっと見ていたら目があった。
それから、ああ、あにみてんだよォって返されてから僕等はお知り合いになった。
僕が知らないタイプの人で、一気に興味がわき上がった。
携帯ゲームを畳んで、靖友お兄ちゃんのすぐ隣にまで距離を縮めた。
びっくりした顔の靖友お兄ちゃんは全然怖くなくて、むしろもっとそういう顔がみたいと思った。
靖友お兄ちゃんは、肘の検査で病院に来ていたらしかった。
昔にやったのだ、って言ってた靖友お兄ちゃんはちょっとだけ寂しそうだった。
そういう顔は、あんまり見たくないなって思った。
そんな出会いから半年たって、僕は小学校六年生に、靖友お兄ちゃんは高校三年生になった。
さらに季節は夏休みになって予定を立ててお兄ちゃんと委員長と一緒に遊びに行った。
お母さんは最初、靖友お兄ちゃんの事を嫌がっていたけど話していくうちにちゃんと靖友お兄ちゃんが良い人だってわかってくれた。
保護者の代わりにまで信用してくれるようになって、本当に嬉しかった。
僕はお母さんにたくさんありがとうを言った。
外出に出たのはサイクリングで、靖友お兄ちゃんが乗っているロードバイクというのがとても新鮮で、楽しそうに乗っている靖友お兄ちゃんがかっこよかった。
委員長も一緒に乗ってくれたサイクリングはとっても楽しくて、走るのよりもずっと早く前に進む自転車が楽しくて、もっともっと自転車に乗りたいと思った。
その時から、僕は携帯ゲームをしまいこんでもっぱら箱根の山を登り始めたんだ。
それから一週間後、僕と靖友お兄ちゃんはお祭りに行く事になった。
お母さんも荒北君が一緒なら、って言ってくれた。
僕は、靖友お兄ちゃんとデートだと思った。
委員長はクラスの女の子たちといくだろうから、僕と靖友お兄ちゃんの二人だけだ。
二人で出掛けるのは、デートっていうんだもの。
だから、僕はお母さんにかっこいい服で出かけたいって言った。
したら、お母さんは浴衣を出してくれた。
明るい水色の白で模様の入った、爽やかな色をした浴衣を着て、僕は靖友お兄ちゃんとお祭りに行く。
無くさない様にって首にかけるタイプのお財布と、発作が起きた時の薬。
それとハンカチとティッシュ。
完璧だ。
待ち合わせ場所にはお兄ちゃんがもう待っていた。
「靖友お兄ちゃん!こんばんは!待たせてごめんなさい!」
「ヘーキだって、さっき着いたとこだ。オラ、いくぞ。つか、お前あんまり走ったらヤベェだろ
「平気!最近ね、自転車に乗って体力が着いたから体育も出てるようになったんだ!」
「へーぇ、そりゃよかったじゃねぇの」
ニィッ、と笑うお兄ちゃんに僕も笑い返す。
お兄ちゃんは世の中ではヤンキーって呼ばれる人らしくて、笑顔も安心させるような顔じゃなくて威嚇する様な顔らしい。
委員長はそう言ってたけど、僕も委員長も優しいって知ってるから怖くない。
この顔だって、本当に喜んでる顔だもの。
露店の並んでいる通りに入ると、どんどん人が増えてくる。
最初はよかったのだけど、小学生の僕と高校生の靖友お兄ちゃんでは足の長さが違っているので少しずつ距離が離れた。
人波の中だと、少しずつ離れていく。
待って、と言おうとしたけどもしも靖友お兄ちゃんが振りかえらなかったらと思った。
もしも靖友お兄ちゃんが、僕の声に振りかえらなかったと思ったら急に怖くなった。
お兄ちゃんはこの後、高校を卒業したら大学と言うのに行くらしい。
僕が中学生の間に、靖友お兄ちゃんはどんどん大人になっていってしまう。
置いていかれてしまう。
どうしよう、僕はどうしたら靖友お兄ちゃんの隣に。
ずっと隣にいられるの。
「やすとも、おにいちゃん…っ」
人の間に消えて行ってしまいそうな背中に、思わず名前を呼ぶ。
それは人波の中では小さな声だったと思う。
なのに、靖友お兄ちゃんは立ち止まって、振り返った。
「オイっ、真波!ぼさっとしってと置いてくぞ!!」
その声は怒っているようだった。
けど、怒っているような靖友お兄ちゃんの声に、安心した。
いつのもお兄ちゃんの声だからだ。
「待ってよ!靖友おにいちゃん!」
「っせ!おら、またはぐれっとめんどくせぇから手、かせよ」
「えっ、手…繋いでくれるの?」
「アぁ?んだよ、恥ずかしいのかよ」
「ううん!嬉しい!」
「あっそ」
ぎゅっと握られた手は大きくてあったかくて、あっついのも気にならないぐらいの嬉しいがあった。
嬉しい、すっごく嬉しい。
「ねえ、靖友お兄ちゃん」
「んだよ」「来年も、手を繋いでお祭り行こうね!」
「お前、来年中学生だろーが…」
「いいの!来年も、その先も!僕、靖友お兄ちゃんとずっといる!」
そう言って靖友お兄ちゃんを見上げると、半分呆れたような顔をして僕を見ていた。
「あーそ…ま、お前がもっとチャリ乗れるようになって、俺に勝てるようになったら考えてやんよォ」
ニッ、と笑う靖友お兄ちゃんはやっぱり僕の心臓をきゅっと締め付ける。
お薬が必要じゃないきゅって痛みだって知ってる。
お父さんとお母さんを好きだって思うのと、委員長を好きだって思うのと、そのどれとも違う好きだって僕はちゃんと知っていた。
それの本当の本当を知るのは、まだもうちょっと先だけど。
今はまだ、大きな手に握られていたかった。



ショタ真波×荒北へのお題は『振り返ることもないだろうから』です。 http://shindanmaker.com/392860  
妹ちゃんに誕生日おめでとう真荒。
妹の嫁コレの名前が靖友お兄ちゃんだって言って浴衣アイテム出たっていうから。

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