本棚4

□となりのツェペリ2
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避暑にやってきたその家は、日常生活を送る上に必要な食堂や父さんの寝室と僕とジョセフとディオの部屋は綺麗だった。
しかし、それ以外はお世辞にも管理が行き届いているとは言い難い家だったので二日目は皆で家の中を散策しながら掃除をすることになった。
大まかにはハウスクリーニングがやっているけれど、部屋の細かな所まではまだまだだ。
置いてある物で気に入ったのがあれば好きにしなさい、と父さんが言ったのも手伝ってようやくジョセフとディオも一緒に来てくれることになる。

「面白いもんあったらいいのになぁー!なぁ兄貴!」
「そうだね、僕は天文学の本があったらいいなぁ」
「ジョジョ、また君そんな金にもならない事に興味を持っているのかい?」
「ディオも読んでごらんよ。星の種類だけじゃない、惑星だってこれからどんどんわかっていくんだ。逆にいえば、まだまだわからない事がいっぱいあるんだよ、それを解き明かす事が出来たら素敵じゃないか!」
「ふん、子供の夢だな…まぁ、本を探すのは僕も賛成だな」

そっけない様に言うディオだけど、心なしか顔が楽しそうだ。
いつもと違う場所を散策するのはやはりわくわくするのだろうかと思うと、僕とディオも同じ事を考えているのかなと嬉しくなる。
屋敷の大半は必要最低限の物と置物の類しかなくて、めぼしいものはあまり見当たらなかった。
古い蓄音機を見つけたが、使えなさそうだったのは残念だった。

「あれ?鍵がかかってる…」

二階の一番奥、突き当たりに面した場所にあるドアを捻ると固い音がした。
どこの部屋も鍵がかかっていなかったのに。
もしかしたら何か大事な物が仕舞ってある場所なのかも知れない。
そう思うと部屋の中に興味をそそられたけど、生憎カギはもっていない。
夕食の時にでも父さんにそれとなく聞いてみようかな。

「兄貴、ちょっと貸してみて!」
「ジョセフ?」
「へっへ〜ん、こういう鍵ならちょちょーいとね?」

細い針金のようなものを出したジョセフが、鍵穴の前に座り込み何やらガチャガチャと弄り始める。
まさかそれで開ける気なんだろうか、という思いよりもどこでそういう技術を覚えてくるんだろうと唖然とした。
カチン、軽い音がする。

「えっ、うそ…ジョセフ、開いちゃったの?」
「イッエース!やー!見よう見まねだけど出来ちゃうもんだね!」
「これは将来、大悪党がジョースター家からでてしまうかもしれんなぁ?ジョジョ」

それはあまり笑えない冗談だよ、と思いながらも中への興味があった僕は頭ごなしにジョセフを怒ることができない。
もしも勝手に入って駄目だったら、素直に謝ろう。
そう決めて、そっとドアを開けてみると階段が上へと伸びている。
部屋ではなく、さらに上へと繋がる通路へのドアだったようだ。
小窓もない階段は薄暗く、上はよく見えない。

「んー…先が見えないと、ちょっと怖いなぁ…結構階段が急だし、踏み外しでもしたら危なそうだよ」
「そんな兄貴に朗報です!なんとこんな所にオイルライターが!」
「なんでそんなもの…あ!それ僕のじゃないか!」
「兄貴ったら隠れてパイプ吸ってるわっるぅ〜いお兄ちゃんだったんだぁ〜…ねー?ジョナサンおにいちゃぁん?」
「…わかったよ。行こうか」
「おい、ジョジョ。こいつ本当にこのままのさばらせておいて大丈夫か?さっさと豚箱に突っ込んでやった方が世の為なんじゃないか?」

堂々と兄を脅してくるジョセフに、この時ばかりはディオの言葉に賛同したくなった。
公平にじゃんけんをして、負けた僕がライターを持って先頭に立つ。
階段に足を乗せると、軋んだ音がしてほんの少し躊躇う。
暗い先はどこまで階段があるのかわからなくて、夜の暗闇を覗くような恐怖感があった。

「よし…!」

気合をいれるように深呼吸をして、階段を上っていく。
螺旋階段でも、折り返す階段でもないそこは、まっすぐに上に伸びている。
少し急にも思える階段は、首を上げていないと階段にぶつかるんじゃないかと思う。
ぎぃ、ぎぃ、一歩ずつ登っていく。
上へ身体を持ち上げる度に、オイルライターの炎が揺らいでじりじりと音を立てた。

「おいジョジョ!もっと腕をあげろ!僕の足元が見えないだろう!」
「ええぇ…ならディオ先頭に来てよぉ…」
「何かあったら嫌だから嫌だ」
「うぅ…せめてランプは取りに行った方がよかったんじゃないかなぁ…」
「兄貴〜早くすすんでよ〜じゃないとディオの尻がやばいことになるよ〜?」
「おいジョセフ貴様何をする気だ!!!!!」

後ろから急かす二人分の声に押されて階段をあがっていくと、天井が見えてくる。
近くまでくると、それは天井ではなく蓋である事がわかる。
取ってのあるそこを押してみると、鍵の類はないようで簡単に持ちあがった。
階段に足を乗せる時と同じように深呼吸をして蓋を押しあける。
きぃ、金具が軋む音がして、薄明かりを感じる。
そっと顔を出すと、どうやら屋根裏部屋のようだった。

「おい、ジョジョ」
「んー…屋根裏部屋っぽいよ?」
「さっさとあがれ。いい加減首が疲れた」
「もう、我儘だなぁ…よい、しょっと…うわ、埃っぽい…っ」

腕をついて身体を持ち上げ、階段から上へと上がる。
手の平が粉だらけになった感触がして、ズボンに擦り付けて拭う。
屋根の部分にある小さなスペースのようで、すりガラスから注ぐ光のせいか足元が見えるぐらいには明るかった。
立ち上がって手を伸ばせば触れられるほどの低い天井のそこは、木箱がいくつか置かれているだけだ。

「けほっ…窓あけるよ」

オイルライターを閉じてから、窓に向かう。
窓ガラスを持ち上げると、風が吹きこんできて少し気持ちが楽になる。
指しこんでくる光も量が増えて、はっきりと足元が見えるようになったみたいだ。
風が流れ込んだことによって埃も外へ流れていったみたいで呼吸がしやすい。

「てっぺんか。悪くないな」
「なんか面白いのねーかなー!」

早速とばかりに木箱を物色し始めるジョセフと正反対に、興味なさそうに見回したディオは窓際までやってくる。
窓を開けた僕を押しのけるようにして、ディオが窓から下を覗きこむ。
影の下から太陽の下に移動した金色に、反射する光の輝きに目を奪われる。
綺麗だな、と思う。
決して口には出さないけれど。
父さんもジョセフもぼくも、みんなブルネットだからディオの金髪は際立って見えた。
なにより、色白のディオにブロンドは良く似合っていたから、気がつけば目を奪われていた。

「好きなの?高い場所」
「ん?ああ、いいだろう。一番上は、どんな奴でも平等に見下すことが出来るんだからな」
「あはは、ディオらしいね」

にぃ、と笑って僕を見るディオが本当にうれしそうで、僕も思わず笑い返す。
ディオの笑顔は決して穏やかとはいえなくて、むしろ何かをたくらんでいるような笑顔だったけど。
それでも僕はなんだか楽しくて笑ってしまう。
含み笑いや侮蔑をにじませた笑顔じゃないだけよかったのかもしれない。

「あ」

短い、ジョセフの声に後ろを向く。
僕等に背を向けていたジョセフは、腕を伸ばして指を指していた。
その腕の先、さらに指の先に視線を移す。

「えっ」
「は…?」

僕とディオが、ジョセフの指さした先にいる物を認識するのは同時だった。
そして理解をはるかに超えた存在を知って、ジョセフが描いたイラストが本当にそのままで有ったことを実感した。
僕らが上がってきた階段のあった場所、光が漏れる床板の穴の所に向かって、白い毛玉のようなものがいた。
その白い毛玉は、明るいグリーンの丸い目をさらに丸くしてジョセフを凝視している。
白い耳があるそれは生き物のようで、呼吸をすると身体が一回り膨れる様な気がした。
ダンッ、埃を巻き上げてジョセフが走りだすのと、ディオが動くのと、その白いのが穴の中に飛び込むのはほとんど同時だった。

「まて!!!!」
「いくぞ!!!ジョジョ!!!」
「えっ、えええ?!」

どたどたと、階段を駆け下りていくジョセフの後に、ディオが続いていく。
咄嗟の事に反応が出来なかった僕は、二人の姿が消えてからようやく足を動かす。
行動力のある二人は、僕が階段を下りはじめた頃には一番下の段まで降りていて、廊下を走っていった白いのをそのまま追いかけていく。

「ま、まってよーー!」

階段を下りて廊下へ顔を出すと、足音だけが下の方へと響いていた。
どうやら、そのまま追いかけて行ってるらしい。
ジョースター家よりは小さな屋敷だから、足音を追えば追いつけそうだ。
扉を開けたままにするか迷ったけど、とりあえず閉めて走り出す。
騒ぎを聞いたお手伝いさんが、リネン室から顔を出していた。

「どうしたんですか坊ちゃん」
「ご、ごめん!なんでもないんだ!」
「元気なのは結構ですけど、階段は気を付けてくださいませー!転んだら大変ですよーー!」
「うん!ありがとう!!」

恰幅の良いお手伝いさんは、にこにこと笑って僕の背中に大きな声で送り出してくれる。
お母さんというよりも、おばさんに近いその人は、にこやかでいい人だ。
なんといっても、アフタヌーンティーに僕が好きなチョコレートケーキを作ってくれると言ってくれた。
とってもいい人だ。
音を追いかけて下へ階段を駆け下りて、エントランスホールにまで降りていくと、玄関のドアが閉まっていく所だった。
どうやら外にまで追いかけにいったらしい。
ディオが一緒にいるのならジョセフは心配いらないけど、このまま追いかけないで待っているわけにもいかないだろう。
なにより、あの白いのを追いかける時にディオは行くぞと言ったのだ。
つまり僕も一緒に追いかけなくてはいけないと言う事だ。
好奇心旺盛で一度追いかけて捕まえ損ねているジョセフはともかく、ディオが追いかける理由はわからなかったけど、とにかく追いかけるしかない。
正面のドアを押しあけて、眩しい外に眼を慣らしながら遠くに消えていきそうな背中を見つけて追いかけた。






とぅびーこんてぬー
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