本棚4

□メルティアイスクリーム
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じょじょべらーのシーザーちゃんが
まるで雪の妖精さんで
そんな真っ白なシーザーちゃんが雪みたいに体温で溶けっちゃったらっていう企画のあれ


1 全部雪のせいだ

唐突ですが俺の恋人は雪に溶けちゃいます。
ウィンタースポーツ、雪のロマンス。
そういう比喩表現とかじゃなくて、俺の恋人はなんと言えばいいのかわからないけど、熱に弱くて肌が溶けてしまう。
真っ白な髪に真っ白な肌は、やらしい意味で溶けちゃうんじゃなくて物理的に。
俺の恋人は真っ白な雪みたいな髪に、頬の痣のある男。
肌の真っ白さはまぶしいほどで、本当に雪みたいだと思う。
ベネチアに旅行にやってきて、久方ぶりに会う母を訪ねてやってきたエアサプレーナ島。
そこの誰も入れない塔の屋上に、冒険がてらこっそりと鍵を開けて入り込んだら誰もいないはずのそこにそいつはいた。
シーザー・A・ツェペリと名乗った男は、どうやら普通の人ではないらしい。
記憶も曖昧だし、自分の名前と波紋について以外の一切がおぼろげだという。
自分がどうしてここにいるのかもよくわからないと言っていた。
俺はてっきり、リサリサが閉じ込めているんだと勘違いしていた。
だから、シーザーを連れて大慌てで広間へ行ってリサリサに詰め寄ってしまった。
すると、リサリサもびっくりした顔をして、なんのことだかわからないって顔をするから。
どうやらシーザーは本当に、どこからやってきたのかわからない存在らしいことを理解した。
波紋が使えることを知ったリサリサは、素性はわからないけれど波紋が使えると言うことは我々の仲間である可能性は高い、行く場所がないならばここにいればいい、と言った。
そういうことで、シーザーは塔に住まいを持つことになった。
のが、二週間前の話。

「おい、ジョジョ!!」
「んんんぅ…やだぁ……」
「やだじゃないんだよスカタン!!!起きろ!!!」
「んぅぅーーーっ!やだーー!!さーーむーーいーーー!!」

最初は優しく揺り起こすように目覚めさせてくれたのに、今では最初からびっくりマークが二個もついている。
布団をかたくなに離さずに暫く攻防を繰り広げるが、ほんの少し油断をしたら毛布をはぎ取られてしまった。
酷い、寒い、冬の朝は暖かい毛布から出る決意に十分はかかるものだという相場を知らないのか。

「さむぃぃいいい!!!!」
「冬なんだから寒いのは当たり前だ。顔洗って朝食に来い」
「ウィンターバケーションですよ…おれぇ…」
「健全な精神は健康な肉体に宿るというのをお前は知らないのか」

顔をうずめた枕から顔をあげて、見下ろすシーザーを見る。
相変わらず、髪は真っ白だし頬には痣がある。
痛々しい痣じゃなくて、シーザー固有の模様のようにも思えるそれは、薄いピンク色。
ふっくりと同じような色をした唇が目につく。

「……シーザーちゃんがおはよーのキッスしてくれたらいく…」

我ながら酷い言いざまだと思う。
一週間過ごしてしまったら、好きになるのは簡単だった。
最初こそ多少の小競り合いに殴り合いまでにはいかないにしても波紋の応酬はあった俺とシーザーだけど、結果的には親友よりも進んだ恋人という関係になっている。
人生っていうのはわからないものだと、エリナおばあちゃんが言っていたけど本当にわからない。
俺はセクシーで金髪の胸のおっきいちょっとお馬鹿でもかわいい子が好きだと思っていたけど、実際のところそれは勘違いだったらしい。
いやでも、シーザーだって金髪で馬鹿では決してないけど可愛いし、胸だって結構ある。
男の胸に何を求めているんだという感じだけど、筋肉がついて張った胸もまあ悪くないかもと思ったのは完全に惚れた欲目だ。
しばらく俺を見たシーザーは、一度目を伏せてから深くため息を吐く。

「おまえなぁ…」
「わかってるよ、一瞬。一瞬だけなら平気でしょ?」
「……お前は体温高いから不安なんだよ…」
「だめ…?」

拗ねたように枕を抱えて問いかければ、ぐっとシーザーが押し黙る。
お兄ちゃん気質の強いシーザーはそうやって甘えてお願いをすると大抵叶えてくれる。
時折、自分を犠牲にしてまで実行しようとする気があるので気を付けないといけないのだけど。
そこは恋の駆け引きと一緒だ。
相手に無理をさせるようなのは、それはなんか違う気がする。
わがままを聞いてくれるのとはまた違うから、本当に加減が難しいところだよな。

「…一瞬だぞ?」

確認と念を押す声、降りる許可。
にやける口元。
俺を甘やかしてくれる無上の愛情を錯覚させる、そういうシーザーだから俺はたまらなく好きだと言えるのだ。
腰を折って、ベッドで顔を近づくのをおとなしく待つ。
パーソナルスペースの内側にまで入って、触れるギリギリまで目を細めてシーザーの顔を見つめているとかち合った目が閉じろと訴えてくる。
ここで機嫌を損ねては元も子もないのでおとなしく目を閉じると、一瞬の間の後に唇にジェラートのような冷たい感触。
それに頭が冴えていくのを感じながら、喉が渇く感覚がして、案の定シーザーとの口約束を破る。
触れただけで離れた唇を追いかけて、これもまた冷たいひんやりとした首筋を引き寄せて今度は自分からキスをする。
声を出すよりも早く唇を塞いで、柔らかい冷たい唇を舐めあげて絡ませようとする。
しかし、それよりも早く飛んできた拳によってそれは阻止された。

「い、てえーーーー!!!本気で殴った!!!」
「ッ、っ……!!!!!!」
「あっ」

口元を抑えたシーザーは、羞恥に顔を染めているけど、それより強いのは燃え盛るような憤怒なのは明白な顔をしていた。
指の端からこぼれる水滴に、やっぱり駄目だったかと残念な気持ちとこれはシーザーの説教が始まると血の気が引くのと半分ずつ思う。
いつもだったらまず先崎にスカタンと言われて殴られるけど、声を出さずに喉の奥で文句を言いたそうにしながらシーザーは俺をにらんでいる。
おそらく抑えた手の下、口元はどろりと溶けてしまったんだろう。
形をなくして、下から筋肉や骨が見えるわけでもなく、ただ水滴に変わって流れていく。
シーザーの体は、体温ですら簡単に溶けてしまうほど熱に弱い、特殊な体質をしていた。
気温や室温ぐらいだったら大丈夫だというのだけど、人の体温以上は形を保っていられなくなる。
まるでスノーマンのような奴だった。

「…ッ…!!!」
「あー…ごめんね?」
「!!!!」

無言だけどなんとなく、だから言っただろうとか、なんだその態度はお前のせいだぞスカタン、とか聞こえてくるような顔をしている。
くるくると表情を変えるシーザーはどう見たって怒っていた。
ごく普通の恋人なら、さらにキスをしてなだめることだってできるけどそれは逆効果。
ひらすら謝るしかできない俺がなんとか許してもらったのは朝食のハムエッグがすっかり冷めたころだった。



とーびーこんてぬー
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