本棚4

□タイナル小ネタまとめ
1ページ/2ページ


タイナル習作

不可思議な感情だな、と思う。
ナルセスさんに対する感情は、分類が難しい。
ごろつきというと素行の悪いイメージが強いが、案外その中でも秩序があるものだ。
世間一般ではごろつきに見えるような男達の中で仕事をする事が多かった。
その中でも、義理や人情を重んじるティガーに長い事世話になった。
そういうパーティーで新入りは兄貴分に育てられるから、必然的によく慕われた。
そのティガーとは長く、5年は仕事をしただろうか。
俺がヴィジランツの仕事を教えた奴は片手とちょっとぐらいいるだろう。
別の場所で再会しても、今でも慕ってくれる奴が大半だ。
俺はかなり、恵まれている。
人として育てられ、生きている。
だからか、頼られなくても世話を焼きたくなる。
17歳になったウィルは、探索にいけばクヴェルを掘り当て、クヴェルはなくとも奇妙なツールを見つけた。
運とはもう言えないだろう。
コーデリアも立ち振舞いがよくなった。
時折、感情が先走ってしまう行動もあるがカバーができる範囲だ。
10歳も年下の二人は、素直に甘やかす事ができた。
二人も、甘やかされる事を受け入れてくれた。
しかし、5歳年上のナルセスさんだけは、どうにも難しくて俺は少し困っていた。
別に要望を聞いてくれないわけじゃないし、気遣いを無下にされるわけでもない。
ただ、そうやって人に介入されるのに、慣れていない印象を受けた。
恐らく、俺がしてきたヴィジランツの仕事とナルセスさんがしてきたヴィジランツの仕事は違うのだ。
術師の彼は随分重宝された事だろう。
それなのに時折酒場で顔を見かけた事はあったが、いつも違うティガーやヴィジランツと一緒にいた。
長く付き合う前提で組む俺とは、少しばかり違っていたようだった。
そんな彼といま、2年一緒に仕事をしている。
不思議な縁だ。
2年も仕事をすれば情が湧く。
ウィルがどんな事をしでかすのか、コーデリアがどれだけ技を研けるか、見ててやりたい。
それは、保護者の感覚に近い。
なのに、ナルセスさんには情に混じってよくわからない気持ちがあった。
世話を焼きながら、この野良猫のような人を、甘やかしてやりたいと思うのだ。
頑なに結ばれた口紐を解いて、中にしまわれた固まった角砂糖をゆっくりコーヒーに溶かしこむように。

「タイラー」
「はい」
「私の分はいい、ウィルとコーデリアの分だけ茶は煎れてやれ。私はコーヒーがいいから自分でやる」
「いいですよ、一緒にやります」
「いい」
「あ、俺もコーヒーがいいんですよ。ナルセスさん」
「…………わかったよ、任せる」
「はい」

ようやく頼まされてくれたナルセスさんを見送って、金髪から覗く折れてしまいそうな白いうなじを見る。
不可思議な感情だ。
情でもなく、親愛でもなければ、果たしてなんという想いの名前なのだろうか。
ブラックコーヒーを注ぎながら、コップの底が見えなくなるのを見つめていた。
知ってしまって良いのだろうか。
カップの底にかかれていた花の模様は、コーヒーで見えない。



次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ