本棚1

□愛しているの仕草
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辰敏同棲パラレル
なんかもうラブラブしてるだけ
キャラ崩壊と訴えられたら負けるレベル
現行設定はほぼ無視
でも辰巳は人狼
敏夫はお医者様
その設定はあまりいかされていない 















右手に煙草とライターをわしづかみして、左手に灰皿を持ってベランダに出る。
閉まっている方の窓を背もたれにするように座り、銀色のジッポを摩擦させてオレンジの火を煙草にうつして蓋を閉じる。
カチンと金属の音がして、それがまた煙草を吸っているという感覚がして好きだ。
煙草はかなりの量を吸っている自覚はあるが、ライターや銘柄についてこだわりはなかった。
すると、辰巳がジッポライターを買ってきた。
銀色のシンプルなそれだが、なかなかに使い勝手がいい。
確かに安物のライターは使い捨てだし、ゴミになる。
それに、ジッポ特有の燃え方で少し煙草の味が変わったように感じた。
流されやすいといえばそれまでだが、少し変わったそれもまたうまい。
ふぅと息を吐くと、ベランダに漂った紫煙は融解するように消える。


「せんせい」


声をかけられたので素直にそちらを向く。
眉根を寄せてこちらを見下ろす辰巳に軽く首をかしげて次の言葉をうながす。
なんだ、ちゃんとベランダで吸ってるじゃないか。
怒られるいわれはないぞ。
はぁとわざとらしくため息をついたかと思うと、辰巳がさらに呆れたようにこちらを見る。


「先生…せめてズボンはいてくれませんか…?」
「なんだよ、別にいいだろ」


辰巳の言葉にこちらも同じように眉間にしわを寄せる。
確かに、上はTシャツに下はトランクスでお世辞にもしっかりした服装とはいえない。
生活を共にし始めた最初こそは文句を言っていた辰巳も、最近は言わなくなったのと思ったらこれだ…。
口に銜えたままわざとらしく不機嫌な顔をしてやる。


「部屋の中でなら僕もとやかく言わないんですが、ベランダにでるのに…」
「いい年したおっさんの下着姿みてどうもこうもないだろうが…」


実際、ベランダとはいってもそれなりの高さ
のあるマンションだし、コンクリート塀だ。
外から見られるようなことなんて皆無に等しい。
まぁ、ここより上の階のビルとかからは見えるかもしれないが、別に女が下着一枚とはわけが違う。
それも口にだしてやると、呆れたように辰巳がため息をつく。


「それはそうなんですが…先生の肌を見るのは僕だけにしたいんですよね」
「…そーですか」


ぐりぐりと灰皿に煙草を押し付けて、次の煙草を取り出す。
予想もしてなかったセリフに慌てているのを隠すために、火をつける。
あぁ、恥ずかしいやつだ。
独占欲の塊ともいえる、そんなセリフをよくもシラフで口にだせるものだ。
恥ずかしい。
視界の端に伸びてきた辰巳の手がうつる。
素直にその手を受け入れると咥えたばかりの煙草を口から離される。
それと入れ違うように顔が近付くから、眼を閉じる。
触れる唇に口寂しさは感じず、むしろ煙草よりも口に運びたくなるからたちが悪い。


「耳、赤いですよ。照れてますか?」
「そりゃ…あんな恥ずかしいこと言われりゃな」
「恥ずかしいって…ぼく、独占欲つよいんです」
「知ってるさ…たつみ」


奪われた煙草が灰皿に押し当てられるのが見える。
けれども別に嫌な気はしない。
昨今の煙草の値上げもあるし、正直1本も惜しいといえばウソになるが今はそれよりも口寂しいのを埋めるのがある。
その分、こいつが埋めてくれればいいわけだから。
名前を呼び、しゃがんで距離が近づいた辰巳の首へ腕を回す。
わかってるくせに、にこにこと俺の言葉を待つのがなんとなくわかってしまい、ちょっと癪だ。


「はい?」
「ん」
「はい」


目を閉じれば、察して降りてくるのは優しいくちづけ。
何度もついばむ様なそれはとてつもなく甘い、砂糖の塊。
名前を呼ぼうにも、それをまるで抑えるように何度も口を塞がれるのでもどかしい。


「ん、…ぅ…っ…た…つみ…」
「…はい?」
「…なんでもない…」
「呼んだだけ、ってやつですか?かわいいことをしますね」
「うるせぇ」


好きだと、愛していると言葉にするには素直じゃなかった。
喉もとまで嘔吐のようにせりあがる愛しているは、そのまま吐き出されずにまた喉の奥へ。
このまま喉にそれを詰まらせて死ねたら、存外幸せなことかもしれない。
愛しているで窒息死なんて、ロマンチックだろう?
それもまた口からでることもなく、混ざる唾液と一緒に嚥下する。
恋人のように甘い台詞を喉にまた押し込んで、腕をまわす。
そうすれば、軽々と抱きあげられ、ベランダからは退場。
愛しているよりも確かに、愛させてくれ。







愛しているの仕草



(このまま、溺れて死んでしまおうか?)
(どろどろと溶ける愛しているを気道いっぱいに吸い込んで)










end
ただの愛してるじゃ足りなかったので。


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