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□妖精のお菓子
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これは、小さな町池袋で起こったとある日常の一部。




「セセセセセセセセルティーッ、うぐぼぁ?!」
〔なんだよ、朝から騒いで〕

私は、珍しく目覚ましよりも早く、森羅の声で起こされた。
せめて起こすなら、もうちょっと優しく起こして欲しいのに。
何時も通りに軽く鳩尾をねらって、軽い正拳突きを出す。
倒れこんできた新羅を抱きとめて、一応PDAに文章を打ち込む。
そして、そこで違和感を感じた。
あれ?新羅…小さい気がする…。

「うぅー…セルティ酷いよぉ…今の体だと回復にかなり時間かかるんだからぁー…」
〔?どういうことだ?〕

ベッドの上で改めて、体を離してみると、自分よりも大きいはずの新羅が、私と同じぐらいになって、なって…え?
私と同じぐらいになって…女の子になっていた…。

「だから、人類の神秘を真っ先に伝えにきたら、いきなり鳩尾に突きは酷いよぉ…」

そういう新羅の声は、いつもの男の新羅の声なのだから、私は余計に混乱して、思わず。

〔ぐ、〕
「ぐ?」
〔グローワクス島に行かなきゃ!〕
「なんで?!ちょ、セルティもしかしなくても凄く混乱してる?!」
〔大丈夫だよ新羅、いや、今は女の子だから新…新子?〕
「いやいや、そんなお新子みたいな名前にされても!!落ち着こうセルティ!今は、まずは落ち着いて状況を整理して朝ごはんにしよ?!」
〔そ、そうだな…すまない、…あまりの事に取り乱した…〕
「僕としては、なかなか見れない慌てっぷりが凄く可愛かったけどぐびごばぁ」

平静に戻った途端に、そういうことを言い出したので、口を捻ってやった。
しかし、正直…随分かわいらしい姿になったものだ。
ほとんど外に出て活動しないのに加えて、新羅は色白だ。
それに今の新羅の服はぶかぶかで大きい上に、男物だ。
なんだか…女の私よりも可愛い気がして…なんだか…。
内心、落ち込んでいるとそれを察したのか。
私の手を握って、新羅は言う。

「セルティ、今僕の事可愛いと思ったでしょ?」
〔・・・〕
「それで、首がない事を考えたんだよね」
〔そ、そんな事は…〕
「嘘、でしょ?」

そう言われて、私がむきになっている時点で、答えは言っているようなものだった。
やっぱり、私には首が無い事が一番のコンプレックスだ。
どんなに口では諦めたと言えても、たまに見かける女の子達を見て、フルフェイスで入れない場所を見つけて、新羅と街で普通のデートができない現実を見つけると、やはり首の事を一番に考えてしまう。

「確かに、セルティに首がない事は曲げられない事実だ。けど…僕は、セルティに首が無くても可愛いと思うし、セルティが入れない場所はろくでもない店だろうと思うし、街でデート出来なくても、たった二人きりで森でデートする方が、何倍も楽しいよ。僕だけのセルティを独り占めだ。」
〔ありがとう、新羅。ただ…〕
「ただ?」

PDAに三点リーダを打ち込んで、ちょっとの間ためらう。
けど思い切って打ちこんで、新羅に見せる。

〔できれば、男の姿の時に言って欲しかった〕
「あちゃー、そうだった。僕すっかり忘れてたよ…」

失敗したなぁとのんきに笑う新羅を見てやっと落ち着く。
そうだ、今は原因を考えなければいけない。

〔新羅、何か変な薬でも作ったのか?〕
「別に作ってないよ?んー、昨日は普通にセルティとご飯食べて、セルティとご飯食べて、セルティとご飯食べた」
〔他には何もなかったのか?ほんとうに〕
「えー?あ、昨日だったよね。セルティがクッキー作ってくれたの」
〔あぁ、昨日確かにつくっ…あ〕

ふと、あまりにも思い当たる事があった。
頭があったら抱えていた。
もしかしたら。

「セルティ?」
〔昨日、珍しい妖精と会って、お菓子にいれるといいってもらった粉…入れたんだ…もしかして…〕
「うん、多分ビンゴだよ。それ」


瞬間、きっとこれが血の気が引くという感覚なのだろう。
まるで重力にひっぱられて落ちるような感覚。

〔新羅…どうしよう〕
「まぁ、なんとかなるよー。害は今のところ身体が女の子になっちゃう事ぐらいだし」
〔いや、その…お菓子…〕
「うん?」
〔……配った〕
「………うん、とりあえず…朝ご飯にしようか」




◆妖精のお菓子◆

(たしか配ったのは杏里と、京平と、静雄と…あぁ…他にも一体何人に配ったのか・・!)






昔書いたもののお蔵だし
一時的に性別が逆転してしまったらどうしようって感じの話

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