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□Who killed Cock Robin?
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Who killed Cock Robin?




[seisin]
村は死に包囲されている。
それは、正直な事を言えばどこでも同じだと思う。
むしろ…人間は死に囚われている。
これは逃げることができない。
不変の事実。
僕は、それをたゆたう意識の端で考えていた。
チクリと、もう塞がったはずの左手が痛んだ。
閉じていた目を開けて、左手を見るとやはりそこにはただの傷しかなく、血は流れていない。
もしかしたら、僕はその不変の事実を確認したかったのかもしれない。
誰にでも、死は平等に訪れるという、逃れられないそれを。
自分の身で確認をしたかったのかもしれない。
まだ、血が少ないせいか上手く頭が回らない。
重くなってきた瞼に従って、再び目を閉じる。
僕は、考えることを放棄した。


[tosio]
俺は、考えていた。
屍鬼をまずは、一人殺した。
これでやっと、村の連中も起き上がりを認めた。
この村を守るためには、考えなければいけない。
これから、どうするか、なにをするか。
考えることをやめてはいけない。
その瞬間、あのおぞましい気配に飲み込まれてしまう。
しかし、不便な事に人間の体には限界がある。
俺は、久方ぶりに深い眠りについた。


[tooru]
ぱちりと、目が覚める。
屍鬼の身体は便利だ。
朝がくればぱたりと眠くなり、夜が来ればぴったりに目が覚める。
そして、俺はまた眼を閉じる。
このまま、目が覚めなければいいのに。
あの時、あのまま、死ねればよかったのに。
隣から苦しげな声が聞こえる。
律ちゃんはまだ食事をしていないらしい。
俺もあの時、夏野の血を吸わなければよかった。
そうすれば、苦しいかもしれないけど死ねたのに。
俺は、今日もまた長い夜を生きなければいけないらしい。


[tiduru]
緩やかに、私に死が訪れていくのがわかった。
それは…一度目の死よりも遥かに痛みを伴う死ではあるけれど。
確かに、私という意識が死んでいくのがわかった。
それは魂とでも言うべきなのか。
私は、悲しかった。
それは尾崎の先生に騙された事でも、村人に罵倒されたことでもない。
沙子を置いて逝ってしまう事が、なによりも悲しい。


[tatumi]
楽しい事になってきた。
沙子に千鶴の死を伝えたばかりだというのに、俺は口元が緩むのが止められなかった。
予想をしていたよりも、尾崎の先生は利口じゃないらしい。
大人しく、喰われていればいいのに。
それに、夏野君。
誤算だったな…まさか、起き上がるとは思っていなかった。
まぁ、ともかく沙子の言う通りにしようか。
俺は夜闇に身を投げた。


[seisin]
真っ白い光に、目が眩む。
どうやら、この部屋は照明を常に付けたままらしい。
未だに抜けない酩酊感に、僕はまた考えることをやめる。
意識が落ちる直前、僕は、死んでいるのと大差ないと思った。
身体が、重い。


[tosio]
幾分か身体が軽くなったようだ。
やはり、睡眠を取ったというのは大きい。
味方がいるというだけで、こんなにも安心できるのか。
俺は、今日もまた、屍鬼を狩る。
鏡を見るのは躊躇われた。
きっと、俺は人の顔をしていないからだ。
俺は今日も杭とのみを持つ。


[tooru]
並々と注がれた赤を今日も俺は、律ちゃんのそばに置く。
飲み干される事なく干からびたコップが、今日もまた一つ増えた。
俺は、律ちゃんの強い意志が羨ましい。
まっすぐに、突き進む姿は、俺の好きな律ちゃんだ。
けど、今まさに彼女は二度目の死を迎えようとしている。
俺はどうすればいいのだろうか。
わからない。
考えても、考えても、俺はどうすることもできないまま。
また、日が昇るのを待つ。

[natuno]
日が沈み始めた。
先生の話だと、来たのは千鶴という女だったようだ。
兼正の奥方とか言っていたか…。
正直、来たのが辰巳でなくてよかった。
人間じゃなくなっても、基本的な運動能力は大差ない。
それは屍鬼だけだ。
人狼は違う。
辰巳は元の筋力に加えて、人狼として強化されている。
辰巳が来た場合、体力で勝てない可能性が高い。
けど・・・やれる。
これなら、殺せる。


[tatumi]
生きようとしている。
彼女は、僕よりも長い時間を生きているにもかかわらず、まだその生を享受しようとしている。
若先生は頭は良い。
潜在的な物で、屍鬼は神仏に関するものに恐怖を感じる。
それを身につけられたら、起き上がったばかりの者は手が出せない。
さて…これから先は、村人を俺達が喰い終わるか。
先生達が人を捨てるか。

どっちが先に、人を殺せるか?

誰が先に死ぬのかな?


誰が
誰を
殺すのか?



Who killed Cock Robin?
(誰が駒鳥殺したの?)

I, said the Sparrow,
(それは私と雀が言った)

with my bow and arrow,
(私の弓と矢を使って)

I killed Cock Robin.
(私が駒鳥殺したの)




end.

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