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□博愛主義者の憂鬱
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臨門








「どうしよう、ドタチン。俺、ヒトが愛せなくなっちゃった」

なんて、俺の古くからの友人は、突然俺の家に来てインターホンを連打したかと思うと、珍しく、本当に困った顔でそう言った。




「…で?」
「だーかーらぁ、最初に言ったでしょ?人間の事を愛せなくなってしまったって」

立ち話じゃ済まなそうな話なので、とりあえず家に入れて、茶を出し、文頭に戻る。
目の前の男は、いつも通りの読めない顔でひょうひょうとそう言う。
けれど、言葉の端ににじみ出る困惑が珍しく、隠し切れていない。
本当に、今日は珍しく普段の臨也らしくない。
いや、普段の臨也が臨也じゃねぇんだ。
普段のこいつは、情報屋を営むための一枚隔てた先にいる。
まぁ、それでも半分は本心なんだろうから、真意がつかめないのだが。

「しかし、どういうことなんだ?」
「うん…なんか、いままでよりも人の事を愛おしく感じないんだよ。普段だったら、泣いて縋る様子とか見ても、愛しいと感じるのに…」

さらっと歪みきった告白をするが、いつもの事なのでスルー。
俺は、軽く眉間にしわを寄せると、臨也は、「あ、でもドタチンの困った顔は好き」とかわけのわからない事を抜かしやがったので、それも無視をした。
臨也を相手にする時は余計な事は言わないに限る。
すぐにこいつは人の上げ足を取るからな。

「でも、実は理由わかってるんだ」
「あぁ?」
「普段から人間観察なんてもの趣味にしてるせいか、自己分析なんかすぐにできちゃったんだよね」
「なら、俺の所に来る必要はないんじゃねぇか?」
「いや?理由の所に来るのは当然でしょう?」
「…はぁ?」

今日は単語しか口にしていない気がする。
つまり、なんだ。
こいつは俺が原因だと言いたいのか。
そう口にすると、臨也は眉根を寄せて、珍しく泣きそうな顔をした。

「うん、まぁ、ね。」
「…臨也?」
「あのね、俺、本当に人間の事が好きなんだ。愛している。けど、俺、ドタチンの事も好きなんだ。」
「…そりゃ、ありがとうよ」
「違うんだ、みんなと同じ好きじゃないんだよ。」
「じゃあなんだよ?」

臨也は俺から目を逸らすように俯くと、青白い指をさらにきつく握りしめて、喋り出した。

「本当ににぶいよね。昔からそうだよ。他の事には妙に敏い癖に、自分の事は全然。」
「突然なんだ…」
「俺は、ドタチンが、好きだよ。愛してる。恋愛感情として、俺はドタチンが好きなんだよ。だから、俺は人が愛せなくなってしまったんだ」
「冗談…」
「冗談で、こんな事口走るほど、落ちぶれてるように見えるかな?」

ここまで、普段とかけ離れた様子を見せられて、軽口の続きを言う事はできなかった。
俺はどうすれば良いかわからなくなっていた。
それは、こいつが玄関を開けて、言った第一声を聞いてから、ずっと。
何故かというと、俺も、臨也の事を、友人としてでなく、好いていたからだ。
だから、俺は人間が好きだという臨也に安心していた。
人間全体を好意の対象にしているのなら、それに含まれる俺も、無条件に愛されるうちに入るのだと。
俺にとっては、それだけで十分だった。
こいつに、間接的にでも愛されているのであれば、それだけで十分だった。


なのに、人間を愛さなくなったという。
そして、俺を愛しているという。


「ねぇ、好きになって欲しいとは言わないから、嫌いにならないでよ。俺、ドタチンに嫌われたら、もう、誰も愛せない。…生きていけない。」
「馬鹿やろう…」
「うん、ごめんね。迷惑だよね、…ごめんね?」

俺の言葉をどんな意味で受け取ったかはわからないが、諦めたみたいな顔をして、謝る臨也。
それに、酷く、腹が立つ。

「…だから、馬鹿だっつってんだ!」
「え、」
「普段から人の言葉聞かない奴だとは思っていたけど、告白したんなら、せめて相手の返事ぐらい聞け馬鹿野郎!!」

俺は、目の前の臨也の襟首を掴んで、引き寄せる。
目を丸くして、俺を見る臨也は、意味がまるでわかっていない顔をしている。
普段、なんでもわかったような顔をしているくせに。
ざまぁみろ。

「好きだ。」
「でも、それは友人とし」

まだ意味のわかってない言葉を吐こうとするので、無理やりそれは封じ込めた。
つまり、キスをした。
勢いに任せて押しつけたので、少し歯が当たって痛い。
少し血の味もするので、切ったかもしれない。
ゆっくり目を開けて、臨也から口を離す。
けれど、それは臨也の手によって阻まれた。
俺の後頭部に手を回したかと思うと、離れようとした唇を引き戻され、しかもより深いものにしてきた。
思わず口を開けると、そのまま舌が入り込んできて、かき回される。
荒々しいそれに呼吸が追いつかなくなり、臨也を掴んでいた手がしがみ付くようになり、それを見て臨也が唇を離した。

「ん、…ぅ…はっ……」
「…ねぇ、ドタチン。夢じゃないよね?」
「……夢にしてぇのか?」
「ヤダ。あぁ…もう、…今ならシズちゃんとも仲良くできる気がする。」
「じゃあ明日から喧嘩売るな。」
「それは無理。気がするだけだから。」

そう言って、臨也はまたひとつ俺のキスをすると、さっきとはまるで別人のような顔で同じ台詞を吐いた。


「俺は、ドタチンが、好きだよ。愛してる。恋愛感情として、俺はドタチンが好きなんだよ。だから、俺は人が愛せなくなってしまったんだ。」








博愛主義者の憂鬱



(お前が俺しか愛せないってんなら、俺もお前しか愛さねぇよ)









臨也が気持ち悪い←
臨門って、男前右な所に魅力があると思う。
しかし、臨也の変態ぶりは久々知に似ている部分がある。
 

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