本棚1

□エバのふぞろいの子供たち
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触れるだけで離れるそれに胸に湧きたつ感情を幸福というのだろうか。

「そろそろ僕は戻ります、室井さんに見つかっては困りますし…本当は、朝まで傍にいさせていただきたいのですが…」
「仕方ないだろ…また、くればいい…」

まっすぐにこちらを見る視線に耐えられなくて、視線を逸らす。
後半は恥ずかしさに徐々に声が小さくなるがそれは余計に恥ずかしさを助長したようなものだった。
するとまた小さく笑うのがわかる。
それに口を開こうとした瞬間に額にキスを落とされてしまって、言葉は喉元に留まる。
それを合図にするように距離が離れて失われる体温に服を掴みたくなる。

「また、様子をみてきますから」
「わかってる…」

おれも外に出れたらいいのに、というのは胸の中に留めておいた。
それが叶うことではないのは自分が一番よくわかっているのだ。
わざわざ口に出すような事じゃない。
それで答えが出ることでもないから言わなくてもいい。
辰巳が窓を開ける、風があるのか髪をかき乱すように風が入り込む。
窓枠に足をかけた辰巳は、もう一度こちらへ向き直り顎をすくい上げられてキスをされる。
今度は自然に目が閉じられても、開けた時にはもう距離が離れているのが惜しい。

「では」
「あぁ」

闇に落ちていくようにして辰巳が窓から空へと身を投げる。
それを見送るが明かりをもたない辰巳の姿は下へ行くにつれて夜に消えていく。
姿が見えなくなった途端に本当に夢であったのかと思うが、腹に感じる違和感に嘘ではないことはわかる。
寝ている間に綺麗にしたのだろう、汗も下半身も拭かれている。
けれど、体の奥で感じた熱はまだはっきりと残っている。

「名前とかって…どう決めるんだ…?」

何か本がなかったか明日探そうと思いながら、腹を撫でて口元に笑みが浮かぶ。






■秘密の子供■





赤ちゃんって見たことないんだよな、おれ。






続く



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