本棚1

□夜祭り
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遠くに聞こえるお囃子に見える提灯の明かりは、賑やかな空気を伝ってそれなりの距離があるはずのここまで伝わった。
外場の小さな夏祭り。
年に数度、神社に商店街の人や有志が集まって露店を出す小さな祭りだ。
なにか見世物があるわけでもないし、外から祭りにくる人はすくないがそれでも数人の知らぬ顔の高校生がちらほら見えた。
同級生がクラスメイトを誘っているのだろう。
それでも、大きくなければそれほどの小さくもない祭りは今年も何事もなく過ぎていく。
数年前に一度、大川の大将の息子さんが羽目を外して騒ぎがあったけどそれもない。
大川さんに怒られたら近所の子でも二度は同じ間違いをしない。
それぐらいのあの人の怒声は迫力がある。
そうぼんやりと考えながら、遠くに聞こえるざわめきに耳を傾ける。
ちらっと目線だけ隣に向けると、お囃子に合わせて敏夫の足がゆらゆら揺れている。
寺の石段に二人して腰掛けて、祭りの場を抜けた後だった。
敏夫の隣にはいくつもの包があって、今は嬉しそうに林檎飴を口にしている。

「そんなにもらっていいの?」
「んー?なにがだよ」
「みなさんがくれるからって貰いすぎだ」
「だって、もったいないだろう?」

そう言って、ぺりぺりと包を破いて敏夫が赤い球体にかぶりつく。
いくら育ち盛りの男子高校生だと言っても、さすがに多過ぎると思う。
尾崎だからという事を抜いても、敏夫は村人に好かれていた。
少し前まではいたずら坊主だとなんど怒られたかわからないのに。
高校生になって、やっと敏夫もそういう付き合い方がわかってきたようでそばでハラハラするような事はなくなった。
けれど、その分ぼくとの接点が少しだけ薄れてしまったようで寂しかった。
外場は小さいから小学校から中学校までずっと同じクラスメイトでクラス替えはない。
高校ではそうもいかずに、クラスが別れてしまったのも一つの原因かもしれない。
ふぅと小さくため息を吐く。
何人かの見知らぬ同年代も敏夫のクラスの人らしい。
僕の知らない敏夫をみているようで、なんだかもやもやする。

「静信も食うか」
「え、いいよ…」
「そういうなって、甘いぞ」

いつの間にか逸らしていた目線を戻して敏夫を見ると、齧りかけの林檎飴を差し出されていた。
しかし、それよりもその先の敏夫の顔に思わず目が吸い寄せられる。
林檎飴の外皮の飴の着色料のせいか、敏夫の口がいつもよりも赤く、光を反射している。
それに思わず目が奪われた。
そのまま、吸い寄せられるように近づけば敏夫は林檎飴を口元に寄せてくれたけど。
それをやんわりと手でよけて、その先の赤にかじりつく。
甘味を舐めとるようにくちづけて、ちゅぅと吸う。
離れると、口の赤に負けずに真っ赤な顔をしている敏夫がいた。

「お、ま…え…っ!」
「…つい」
「ついじゃない…っ!ちくしょう…」
「だって、敏夫が美味しそうだから」
「うるさい!」

そう言って敏夫はそっぽをむいてしまったのだけど、かすかに見える耳も真っ赤で。
ぼくはそれだけでさっきのもやもやがどうでもよくなってしまったんだ。
今は、僕だけの敏夫。
祭りはまだ、終わりそうもない。
この騒がしいざわめきの間は、僕だけの敏夫。












またPIXIVにて企画している夏祭り企画。
「としおまつり!」に出したもの。
締切りギリギリの20分クオリティであることをとても申し訳ないと思う…。
としおまつり!はののさんとの共同企画ということなのですが、もうちょっと別の話も書きたいです。



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