本棚3

□情け容赦なくそれでいて辛辣な
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ジョジョという男について俺がここ何年で分かった事と言ったら、馬鹿が付くほどのお人よしの甘ったれで、紳士を目指すと言う癖に口ばかりで大ざっぱで、紳士という理想に生真面目に従っているだけの、似非紳士。
出会ったばかりの頃はほとんど差がなかった身長はいつのまにか195センチにもなって、体格もアホみたいに筋肉がついた引きしまった身体になった。
落ち着きこそはでてきたが、それでも子供の時と比べたらの話だ。
成人にしてはやはりどこか抜けていて、社会に出ていけるのか呆れるほどに間抜け。
そして、六年間の月日の中で分かった事がさらに二つ。
ひとつはセックスが荒っぽい事と、星型の痣があること。
ベッドの端に座るジョジョの影がくっきりと落ちる筋肉の首筋に、星型の痣。
横になったまま緩慢に手を伸ばすが、上手く星まで届きそうになかった。
忌々しい、俺が手を伸ばして星を手に入れるのではなく、手を伸ばした俺の手に星が落ちてくればいい。

「ん?ディオ?」

動いた気配を察したジョジョが、振り返る。
俺の顔の傍へと手をついて、上体を曲げると返事を待たずにキスをしてきた。
額へと落とされるだけの子供の様なキス。
距離が近づいたので触れることが出来る様になった、首筋に星。
無意識に口にでもしていたのだろうか。
俺が動くまでもなく、星が落ちてきた。

「…ん…なに、なんでもないさ…」
「そう?からだ…へいき?」
「へいきだったらとっくに風呂に行っている」
「だよね…」

悪いことをしたなぁ、と言いながら呑気に笑っているジョジョは本当にデリカシーってものがないと思う。
そもそも、セックスの最中に胸で感じて女みたいだとか、後ろだけでイけるよねだってディオはそういう方がずっと可愛い顔で喘ぐんだものとか、意地の悪い事ばかりを口にしたがるような奴にデリカシーがある方が不思議なんだ。
そもそも胸を揉まれたり弄られたりするので感じる様になったのも、尻に突っ込まれただけで射精してしまうようになったのも、全部お前の与える刺激が規格外であるということをわかっているんだろうか。
絶対にわかっていないし、俺の方が淫乱な身体をしているからだとか思っていそうだ。
わざわざお前の身体がでかくて奥まで突っ込んでくるのが気持ち良すぎるからだとは言わないし言いたくもないから、きっと一生気付かないんだろうな。
ベッドに腰掛けたまま、見下ろすジョジョの肩を引き寄せる。
素直に従って顔を寄せてくる辺り、そこだけは気分がいいから悪くないが。

「ごめんね、つい…」
「つい、であんなに酷い抱き方をするのか、貴様は」
「……君だけだよ…他の女の子とした時だって、あんなに興奮するような事は一度もなかったもの」
「なんだ、浮気か?」
「君に好きだって言われる前だから、時効だよ。それに、後にも先にも、我を忘れるほどに求めてしまうのも…好きなのも、君だけだよ」

柔らかい真綿のような言葉だと思う。
大した重さが無いように見えて、確実に重さを増していく、そうして動けなくしていく。
ジョジョの言葉に嘘を見つけたかった。
人の嘘を見抜くのが上手くなり過ぎた俺は、ジョジョの言葉に嘘がないのが、それこそ嘘であるとしか思えなかった。
愛していると、好きだと、平然と口にする。
その暖かくも柔らかい言葉が肌に当たると、とろりとそこから身体が溶けてしまう様な感覚だった。
キスをしても、そのあまりの心地よさに唇からとけてしまう。
ジョジョに簡単に、どろどろにされてしまう。
正体を無くしてしまう。
このディオが、俺が、俺で無くなってしまう。

「そうかい、物好きだね。君も」
「ディオには言われたくないなぁ…」
「よくいうな」
「ごめんってば…ほんと、ゆるして…ね?」
「んっ…!」

豊満な胸や尻があるわけでもなく、可愛い声で喘いでやるわけでもないのに。
とたたみ掛けてやろうとしたけど、それ以上は言わせないとばかりにジョジョが口にキスをしてくる。
丸めこむのと話を逸らすのは上手くなって、全く嫌なとこばかりが成長するものだ。
とろとろと唇が溶ける感覚がして、薄く唇を開ければ舌が入り込んできて優しく触れる。
駄目だと思う自分と、もっとしろと思う自分がいる。
そのどちらも紛れもない本心であって、僅かに欲しいと思う気持ちの方が割合は大きかった。

「んぅ……ん、……」
「…ん………ディオ……かわいい…」

キスで絆されてなどやりたくない。
しかし、昨晩セックスで散々甘やかされて愛された身体と頭では、馬鹿みたいだと思うのに流されてしまいたくなる。
本当に馬鹿みたいで、頭が悪いと思うのに。
舌を軽く摩るだけの深いようで軽いキスは、時折離れて唇の形を確かめるように小鳥が餌を食む様に啄ばんできて、リップ音が鼓膜を揺らす。

「ふ、…ぁ…んんぅ……じょじょ…」

キスだけでは駄目だ。
丸めこまれてなんかやるものか。
首の星を撫で、うなじをさすって頭を抱き寄せる。
ジョジョの固いブルネットを手の平いっぱいに感じて、唇で肉厚な舌を食んで鼻に抜けるような甘い声を漏らす。

「んっ、はぁぁ………じょじょ…」
「…っ…もう、起きなきゃ…」
「へぇ…ここまでしておいて?ふぅん、君も随分と我慢できる様になったじゃあないか」

敏感に俺の考えている事を察したのだろう。
ジョジョは控えめに身体を起こして距離を取ろうとする。
しかし、抱きしめた首に力を込めてやれば、それ以上は距離を離す事はできなくなる。
俺の腕の届く範囲から逃げようなんて、簡単に出来ると思うなよ。

「ジョジョ」

鮮やかな森の緑をした瞳を真っ直ぐに見詰めたままに名前を呼べば、ジョジョの顔が僅かに朱に染まる。
頬が熱くなって、首筋の血管もドクドクと激しく脈打っている。

「ジョジョ」
「……ディオ」
「じょじょ」
「…………ディオ」
「…すきだ、ジョジョ」
「ッ…!」
「愛している」

正体が、ディオ・ブランドーという俺の輪郭が溶けている。
情事の最中でもないというのに、口から零れた甘ったるく吐き気がする様な言葉をさも愛おしそうに言っている。
このディオがどうして、貴様なんか。
しかし、これも嘘だと言えればよかったのに、どうしても嘘にならないのだ。
嘘であってくれと願う間は、どんなに足掻いてもそれはただただ事実であり続けてしまう。

「……君には……敵わないよ」
「馬鹿な事を言うなよ、ジョジョ。……百年経った所で、お前は俺には勝てんさ。死んでもきっとな」
「一度くらいは勝つよ、きっと」
「少なくとも、今のお前じゃ勝てないさ」

呼吸を奪うようにキスをすれば、興奮して熱くなった手が肌を撫でる。
簡単に湧きあがる情欲に身を任せて、情けなく弱々しい自分を笑った。
俺はお前を愛してしまっているんだ。

「ディオ、僕も君が好きだよ。とても、愛してる」

情けない事に、ジョジョの言葉を嘘だと思いたくない自分がいる。






情け容赦なくそれでいて辛辣な






12月4日
誕生花:酸葉(すいば) Rumex(ソレル)
花言葉:情愛
同日誕生花:コリアンダー Coriander
花言葉:辛辣
情愛っていつくしみ愛する気持ち。深く愛する心。なさけ。愛情。って意味合いになるんですってね
ディオにもジョナサンにも、ほんの少しでも情愛があれば変わったのかなーって思いながら




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