本棚3

□まよらなの夜
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金髪が好きなんだと思う。
初恋の相手が金髪だったというのも少なからずあるのだろうけど、どうやら僕は金髪に惹かれる傾向があると気付いたのは大学の友人と空き教室の一角でポルノ写真をみていた時だった。
どれが好きなんだよと言われたので、素直に選んだらその全部がブロンドだった。
写真の女の人達は全てが金髪ではなくて、どちらかというとブルネットの方が多く、またブルネットの女性の写真はどれもが女中の格好や制服など真面目で貞淑な雰囲気のする女性の方が多かった。
僕が指差したのはというと、自らスカートをまくりあげていたり下着姿であられもない格好をしている物ばかりで、友人からは見た目よりも随分と過激なのが好きなんだなと笑われた。
それもこれも、全ては恋人であるディオのせいだとは口にする事は出来なくて、曖昧に笑って濁したのだけど。
恋人という関係になる以前からディオとは肉体関係があって、最近ようやく恋人同士としてセックスをするようになったのだけど。
僕の趣味が変わったのはディオのせいだと僕は思っている。
だって昔はちょっと大人しいぐらいの、恥ずかしがり屋の女の子を見て可愛いなと思っていたんだ。
それなのに、ああいう積極的な子がいいなと思い始めたのは絶対にディオのせいだ。
夕食を終えてお風呂から戻ってきたら、すでに部屋のベッドで横になって待っているのが好きだなんて、絶対にディオの影響だ。

「随分遅かったなぁ、ジョジョ。考え事でもしてたのかい?」
「ああ…うん…間違ってはいないんだけど、ディオ。その格好の理由を聞いてもいい?」

うつ伏せになって本を読んでいたディオはいつも通りの、全くいつも通りのディオだ。
シャツやスラックスはおろかナイトローブすら着ておらず、真っ赤なベビードールを着て、真っ赤なレースの女性下着を履いて、これもまた真っ赤なガーターベルトで黒いストッキングを吊っている姿以外は。
いや、そんな恰好をしている時点でいつものディオではなかった。
本から視線を上げたディオは、楽しげに目を細めると頬杖をついてこちらを見る。

「理由が必要か?」
「必要かどうかはわからないけど、少なくとも僕は状況が飲み込めていないよ……」

ドアの鍵を後ろ手で閉めれば、錠が落ちる音がする。
その音を聞いたディオはさらに笑みを深くして、うつ伏せだった身体を僅かに捻ってこちらを見る。
驚きこそしたけれど、つい昼間にそんな恰好の写真を見て、ディオが着たらどうだろうと想像した僕としては、なんというかヤッタネという感じだったりする。
女性物だというのに堂々と、平然と着こなすディオの姿は、ひらひらと柔らかなレースや布とは正反対にしっかりとついた筋肉質な背中や足がアンバランスに思えた。

「お前の好きな淫らな娼婦の格好をしてやったというのにもうちょっと素直に喜んだらどうなんだ?」
「そんな事言った事ないだろう!?」
「ポルノ写真に鼻の下伸ばしてたのを俺が知らないとでも思ったのか間抜け」

あんまりな言い方に何も言い返せなくて溜息を吐く。
なんとなく予想は出来ていたけれど、今日の猥談を誰かから聞きつけたらしい。
耳聡いというか、情報が早いというか。
それにしても、なにより行動が早過ぎる。
そんな話をしていたのが今日の午後、アフタヌンティーを過ぎた時間だったというのに、一体いつ聞いてこれらの装飾品を準備したんだろう。
むしろよく、ディオの体格で着れる物があったと思う。
お世辞にも細いとは決して言えないディオが着ても、ゆったりとしたベビードルは薄くて、着ている意味もないぐらい透けている。
下着はよく見れば腰の辺りに紐で留めているから、サイズは気にしない物を選んだのだろう。
赤い紐と黒のガーターベルトが交差する太ももは、かなり扇情的だ。

「…それで?そんな恰好してるって事は、写真の一枚でも撮らせてくれるのかい?」

ディオの横たわるベッドに腰かけて、意趣返しにそう言えば、なおさら楽しそうに笑みを深くする。
とっくに本は閉じられて、サイズテーブルに避けられている。
ディオの顔の横へ手をついて、上から覗きこむ様にすれば、心底楽しそうに笑っている顔が陰る。

「綺麗に撮ってくれるならね」
「冗談言わないでよ…そんな恰好の写真を現像になんか出せるもんか…」
「なら存分に目に焼き付けておくんだな、ジョジョ」

ゆっくりと上体を折って顔を寄せれば、視線がかっちりとあったまま触れそうなほどの距離にまで近づく。
ぼやけて焦点が合わなくなってしまいそうなほどの距離で止めれば、ディオが目元を赤く染めて薄く唇を開く。
キスがして欲しんだな、とすぐにわかったので素直にその口に触れれば、さらに楽しそうにディオが笑う。

「んっ…ふ、んぅ……」

内側からまるで絡みつく蔦のように腕が伸びてきて、首筋に両手が回される。
引き寄せられてしまえば、そのままキスをし続けるしかなくなってしまう。
触れたままずらす様にして角度を変えれば舌を差し入れるよりも早くディオの舌が唇をつつく。

「ん……っ……」
「っ…ふ…ん、ぁ……ぁ」

唇ごと食べられてしまうんじゃないかってぐらい深く重ねて、舌を引きずり出される。
咥え直す様にして今度こそディオの咥内へと差し入れれば、強く頭を抱かれて押し付けられる。
ディオの内側の粘膜の感触だけじゃなくて、仕草だけで腰が重くなってしまう。
ディオのあられもない姿だけでも十二分に火を付けていたのに、キスだけでも十分すぎるほど興奮させる。

「ふ、ぅ…うっ、ぁ…ふあっ、あぁ…じょ、じょぅ…!」
「…ふぁ…は…あ………キスだけで、すごいね…ディオ、可愛い顔になってるよ」

目には獰猛な欲望を灯らせてギラギラさせているのに、目元はとろとろと溶け切っている。
開いた唇の隙間から、物足りなさそうに動く舌が見えてそれもたまらない気持ちにさせた。
首筋に顔を寄せて、耳の裏側へとキスをしてあげれば短く声が上がる。

「ひんっ!や、め…そこは、やだって…いつも……ッ!」
「気持ち良すぎるからでしょ?…ん、…?ミント…じゃないね…なんだろう…いい匂いがするね」

首筋で深く呼吸をするとミントのような清涼感と甘い匂いがした。
いつもディオが付けている香水でもなければ、洗剤の匂いでもない。
知らない匂いがディオの匂いと混ざって新鮮だった。

「甘い匂いもして……おいしそう」
「……ふふ、知ってるか、ジョジョ…マジョラムの香りには、制淫効果があるんだぜ?」

どうやら君には効かないみたいだけどな、と言って笑うディオの唇は、キスで擦れ合ったせいかいつも以上に赤い。
真っ赤な林檎を思い出させる唇からは、マジョラムの匂いが混ざって一層甘い果実の様に見えた。
たまらず噛みつくようにキスをして味わえば、やっぱり甘かった。

「ん……ジョジョ…?」」
「ディオの方がずっと強い香りを出す麻薬なんだから。…そんなのじゃ抑える事なんか、出来ないよ」

積極的過ぎるぐらいに積極的で、頭の先からつま先まで全身で愛してくれる。
金髪の女の子を選んでしまったのも、とびきりの恋人の印象が強烈過ぎるだけなんだろうな。
なんたって、僕が抱きたいと思うのは金髪の可愛い女の子じゃなくて金髪を濡らして淫らに喘いで泣いてくれるディオなんだから。
ディオの金髪が好きなんだから。
清涼感のある甘い香りを肺いっぱいに吸い込んで、僕は大好きなディオをぱっくりと飲み込む事にするんだ。








まよらなの夜






11月29日誕生花
マジョラム(茉沃刺那[まよらな]) Sweet marjoram花言葉:羞じらい

はじらい #とは



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