本棚3

□豪雨
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びしょ濡れのまま迷惑を承知で電車に乗って、俺の家に向かった。
その頃には頭はいくらか落ち付いてきたように思えたけれど、玄関の鍵がしまって二人きりになった途端に、簡単にスイッチは切り替わる。
靴を脱いで、カバンも濡れているから玄関に置いたままにしてもらう。
そして、もどかしいまま自分の部屋に行く。
その間に何回もぱちん、ぱちんとスイッチは切り替わって、正常な判断が出来ているかと聞かれると自信はない。
部屋に入ると同時に影山を引き寄せて、唇を押し付けた。
影山の手が背中を支えてくれて、身体はぴったりと重なる様に密着する。
何度も、何度も、角度を変えて触れるだけのキスをする。
雨の味がする唇を軽く舐めてやると、影山が怯える様に薄く唇を開けた。
今すぐにでも、その口で存分にかき乱されたい気持ちになったけど、じっとりと思い制服を脱ぐほうが先だ。
開いた唇の少しだけ中を触れ合わせるようにキスをして、影山のボタンを外していく。
キスをしながらでうまく外れなくて、何度も失敗した。
ようやく学ランのボタンが外し終わる頃には、触れ合わせた唇がびりびり痺れるような快感に覆われていた。

「は…はっ…ぁ…かげやま…」
「…はっ、はぁ…す、んませ…っ…あの…」

身じろぎする影山は、不自然に足を揺らす。
下へ視線を動かせば、スラックスの上からでも下肢の形が変わっているのがわかった。
そんな影山を笑うことができないぐらい、自分だって足元がふらつきそうだ。
影山から距離をとって、背を向ける。
学ランを脱いで、顔だけ後ろを向く。

「言ったじゃん。誕生日プレゼントさ、影山が欲しいって」

学ランを床に落として、シャツを脱いでいく。
その様をじっと金縛りにあったみたいな影山が見ている。
その視線にすら体を撫でられ愛撫されているような気がして、お腹の底から熱がぶくぶく湧き上がる。

「影山も、脱げって…風邪引くし…な?」

手を引いて、促せばようやく影山が学ランに手をかける。
黒の学ランの下のシャツも濡れてびしょびしょで、Tシャツを着ていないその下の身体が透けて見える。
体格が違うだけでこんなに違うのか。
影山の身体は、まだ発展途上とはいえ筋肉がついていて、なかなか精悍な雰囲気がある。
子供らしい雰囲気もあるのはこれからまだまだ体が大きくなるからだろうな。
じっと見ていると、急に恥ずかしさが込み上げてきて、思わず顔を逸らす。
すると見計らったように、影山が背中から抱きすくめてくるから、本当に天然でやっているのかと疑わしくなる。
影山の手が震えて、それから何も動けないでいるのがわかっているから、決して計算で出来る奴じゃないんだけど。
腕の中で身体を反転させて、影山の首に腕を回す。
そして、狙いをつけて後ろにおもいっきり引っ張った。

「ッ、!!!」
「にひひっ…怪我ないか?」
「菅原さんこそ、大丈夫っすか?!どっか打ったり…」

ベッドに強引に引きずり込んだら、案の定ベッドが悲鳴を上げた。
これからもっと重たくなるから頑張ってくれないと困る。
何するんですか、じゃなくて怪我を心配してくれるあたりこの後輩が俺に怒りを覚えるなんて事は相当な事がない限り、ないんだろうなと思った。
優しくし過ぎているのも原因だ。
雛鳥は優しくされたらそれが刷り込みされてしまうんだから。
お前が思うよりも俺はずっと嫉妬するし欲深い、聖人じゃないんだよ。

「ん、へーき…な、かげやま」
「…っ、はい…」
「キスして、舌入れて、きもちいいやつ…そんで、からだ触って?」
「っ、は…い…」

俺の言葉を聞いていただけで影山の顔はもう真っ赤だ。
そんなに赤くなられてはこっちだって恥ずかしくなってくる。
先ほどの激しさはどこにいったのか、控えめに触れられるキスからゆっくりと舌を差し入れられる。
触れ合った唇はだいぶ暖かさが戻ってきたけど、触れ合った咥内の方が暖かいから冷たく思える。

「ん、…んっ…んぅ」
「…、は…」

覆いかぶさる影山の身体に手を回して、体温を分け合う。
濡れた身体はまだまだ冷たいけど、きっとこれから前後がわからなくなるぐらい熱くなるのかと思うとそれだけで腰が重くなった。
拙い舌は触れるだけで手探りな感じがするけど、それが影山らしくて気持ちが良い。
鼻から抜けるような甘い声に、自分の頭がくらくらする。単純に酸素が足りないのかも。
揉み合うように抱きしめて、抱きついて、腰を押し付けて。

「っ!す、すがわら、さん…」
「なぁ、影山。下、さわりっこする?」
「い、いいんですか…」
「うん。おれも、お前の事気持ちよくさせたいし…もう、結構やばい…信じられるか…?キスしかしてないのに」

ベルトはすでに抜いてあるスラックスに指をかけて、チャックを下ろしていく。
その様を見ている影山が、大きく膨れる欲をみて息を飲む。

「…男の身体じゃ、やっぱりきつい?」
「違います!そうじゃなくて…その…すげえ、やらしい感じがして…ドキドキします…」
「そういう、はずかしーこと口に出しちゃうんだから…そこが好きなんだけどさ」
「っ!…すがわらさん…」

恥ずかしさを紛らわすためにキスをしてやると、情けない声が影山が俺を呼ぶ。
つい最近まで中学生で、きっと女の事付き合ったことなんかないだろう影山は、おそらく自慰だって必要最低限だろう。
バレーボール馬鹿だからな。
そんな影山のはじめてを俺で全部塗りつぶしているのかと思うと、罪悪感と高揚感の両方に頭はおかしくなる。

「お前のはじめてをさ、俺の誕生日プレゼントなんて、贅沢過ぎて罰が当りそうだ」

強く抱きしめて、降りしきる雨に声は紛れるからいいかなと、のぼせた頭で思った。
これから何年、もしかしたら何ヶ月、一緒に好きだと言えるかわからないけれどこの時だけ、俺は影山と生きる永遠を信じられる。
繋ぎとめる手を離したくないと願うのは、他ならぬ自分なのに。
流れる涙はきっと、生理的な涙だと、誰にともなく言い訳をした。





スガさん誕生日おめでとう
2013613





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