書庫-参-
□曖昧ナ言ノ葉
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日差しが新緑を照らし、花々の蕾みがほころんでくると、ようやく奥州にも遅い春がやってくる。
しかし、近づいてくる春とは裏腹に、伊達家居城の一室には緊張した空気が張りつめていた。
「・・・で、お前が人質に?」
「そうでござる」
思わず、部屋にはいることをためらい、足が止まる。
主である政宗に目通り願うと、普段と異なった旅装束に身を固めた幸村が、小十郎を尋ねたのは昼過ぎだった。
◇◇◇
「てことで、武田の人質だ」
「お世話になるでござる」
政宗は、悪戯っぽい笑いを含め突然言ったのと同時に、幸村は深々と頭を下げた。
大広間に集められた家臣達が、政宗のあっけらかんとした物言いと、幸村の人質らしくない雰囲気に驚く。
もちろん、政宗の隣に控えていた、小十郎も同様だった。
「なっ・・どういう・・」
「うるせーな〜。もう決まったんだ。幸村はここでしばらく預かる」
幸村が持ってきた信玄からの書状に要因があることは確実であったが、主が決めたことに口出しはできない。
小十郎は、政宗と幸村の表情から、然程大きな問題ではないのかもしれない、と安堵し渋々ではあったが、承諾をした。
「分かりました。ですが、政宗様。真田の面倒はこちらでさせていただきます」
「ああ、そう言うと思ったぜ。ま、丁重に頼む」
政宗が幸村のことを気に入っていることは重々承知している、だからこそ主と人質が同じ空間で過ごすのは、いくら形だけの関係であっても、家臣に示しがつかない。
ここまでくると、好色にも困ったものだ、と小十郎は小さく溜息をつくしかなかった。
弥生も終わる、ある晴れた日だった。
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