書庫-弐-


□初会ノ刻
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遊郭「椿屋」。


名の知れた高級大見世であるが故、入れる者が限られているため、中の様子を知る者は限られている。
外観は、揚屋風で本殿、別棟共に当時には珍しく、3階建てであった。
主に妓が客をとる房室は本殿に、妓が芸事を習う場や、大宴会場、楼主の部屋は別棟にある。
房室と別棟は3階でのみ渡り廊下で繋がっており、客は別棟へ渡ることは許されない。
だが、基本的に房室はそのまま妓の部屋となっており、営業の場であると同時に生活の場でもあった為、妓自身も別棟へ赴くことは大して多くはなかった。
本殿に入るとホールがあり、左右に張り見世がある。
目の前には2メートル弱はあろうかという程の大きな階段が中央にあり、客はその正面階段を上がり、最終目的である3階へとあがるようになっていた。
開放的な玄関ホールとはうって変わり、室内は那智黒の洗い流し、各部屋からは縁がでて、それぞれの部屋が独立した閉鎖的な風情を演出している。
日本、西洋、中国といった様々な伝統デザインが建物の至るところに使用されているのは、郭としての最先端であり、楼主である松永の趣味であった。

そしてその独特な空間では、誰もが一度は目にしたいという程の美麗な妓たちが、一夜の夢を売っている。


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