頂きモノ

□魔法のコトバ
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薄暗い路地裏で二人の子供を拾って、はや二週間。
まだ十にもなっていないだろう幼い子と四六時中一緒にいて、わかったことが一つ。
どうやら彼らは、人と関わることが極度に苦手なようだ。









否、苦手どころではない。


それに気付いたのは、つい最近のこと。
まだ幼いヴィンセントを寝かしつけ、ギルバートにもおやすみのキスをしようとした時。
ギルバートはヴィンセントが起きないように細心の注意を払いながらも必死でベッドの上を逃げ回り、最終的に転げ落ちて泣き出すという始末。
いつもはのんきなジャックでも、それは予想外の展開だったらしく。
苦笑をうかべながらギルバートを泣き止ませようと必死で慰めた。

「大丈夫かい、ギルバート?」
「うっ、ひくっ……だいじょぶ、です…」
「たんこぶになってないといいけれど。どこをぶつけたの?」
「頭…」

涙声で応えたギルバートの頭を、そっと撫でる。
触れた瞬間、ビクリと跳ねる小さな肩。
怪我はしていないようだが。

「どこか痛かった?」
「い、いえ………」

ふるふると首を横に振る。
だがその頭に触れ、撫でると、ギルバートはなんだか怯えたような表情をする。
いったいどうしたのだろう。

「ギルバート……?」
「っあ、はい」
「どうかしたのかい?」

名前を呼んだだけで震える声。
やはり、何かおかしい。

「あ………」

前に、ギルバートから聞いた話を思い出す。
彼と弟の今までの境遇。
特に、兄であるギルバートの経験。
そして周りの人間の目。
ギルバートに普通の子供とは違うところがあることはわかっていた。
それは、屋敷で生活していてもわかる。
きっと人とどうやって関わったらいいのかわからない。
人にどうやって甘えたらいいのかわからない。
精神的に自立が早すぎた。

「ギルバート」
「は、い」
「私が怖いかい?」
「い、いいえ」
「じゃあ私と友達にならないか?」

大きな目をいっぱいに開き、必死で拒む。
それはきっと、私が怖いからとか嫌いだからとかではなくて。

「だっ、む、無理です! マスターはマスターなんですから!」

ほら、やっぱり。
予想通りの返答に、ジャックは苦笑い。
ギルバートは『人の為に』と言って人と一線を引いてしまう。
無意識のうちに。
そうして付かず離れずの関係を作ることで、傷付かないように。
自分をまもっているのだ。
ジャックはひとつため息をつくと、ギルバートの肩を掴んで向き合わせた。

「あのね、確かに私はギルのマスターという位置にいるけれど、ギルを使用人にしたくて君らを拾った訳じゃないよ」
「え?」
「私はギルが好きだから。ギルの友達として、お互いを守りながら一緒にいたいと思う」
「とも、だち…」

その二文字を、ゆっくり噛み締めるように復唱する。
だが、ギルバートの中でそれは違和感を持っていて、ジャックとの関係に当てはまる言葉ではなかった。

「ダメです。ぼくはマスターの使用人ですから」

とても寂しそうに応えるから。










愛しい心を溶かせたら


(隣にいて安らげるように)

fin.
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