♪執事が7匹。

□1匹目:「迷宮珈琲館」
2ページ/11ページ


『こんな所に何で猫が……』

 目の前を帰宅ラッシュの車が走り抜ける中、この距離だと肉眼で分かるのは、毛の色が白と茶色で、黒い首輪をしているということくらい。

 やがて信号が青になる。反対車線からこちらに向かう人混みの中、あたしは動かない猫を見つめながら歩み寄った。

 「っあっ……」

 しかし猫は、あたしの視線に気付いたのか背を向け足早に去ろうと歩き出した。

 ――どうしてか、あたしは猫の行く先が気になって、その姿を追った。


 猫は時折歩く速さを速くしたり遅くしながら、しかし人よりも速い足取りで進んでゆく。

 その度にチリチリと首元についている鈴が複雑なリズムで鳴る。

 夜でも明るい大通りの歩道を、あたしは人を上手く避けながら、猫を見失わないように走った。

 走る、走る。

 猫は止まらない。

 ただ真っ直ぐにゴールの見えない歩道を進み続ける。

 あたしは流石に走り続けるのに体力の限界を感じ、追うのを止めようと――したその時。

 猫は横路地へと曲がり、そして今までよりも速い速度で進み始めた。
 大通りより暗い道を、あたしは影と鈴の音だけを頼りにして追尾を続行することにした。

 居酒屋、クラブ、賭場などの店が並ぶ道を抜け、そして再び横道へと曲がり……やがて前を行く鈴の音が止まった。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ