♪執事が7匹。
□1匹目:「迷宮珈琲館」
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『こんな所に何で猫が……』
目の前を帰宅ラッシュの車が走り抜ける中、この距離だと肉眼で分かるのは、毛の色が白と茶色で、黒い首輪をしているということくらい。
やがて信号が青になる。反対車線からこちらに向かう人混みの中、あたしは動かない猫を見つめながら歩み寄った。
「っあっ……」
しかし猫は、あたしの視線に気付いたのか背を向け足早に去ろうと歩き出した。
――どうしてか、あたしは猫の行く先が気になって、その姿を追った。
猫は時折歩く速さを速くしたり遅くしながら、しかし人よりも速い足取りで進んでゆく。
その度にチリチリと首元についている鈴が複雑なリズムで鳴る。
夜でも明るい大通りの歩道を、あたしは人を上手く避けながら、猫を見失わないように走った。
走る、走る。
猫は止まらない。
ただ真っ直ぐにゴールの見えない歩道を進み続ける。
あたしは流石に走り続けるのに体力の限界を感じ、追うのを止めようと――したその時。
猫は横路地へと曲がり、そして今までよりも速い速度で進み始めた。
大通りより暗い道を、あたしは影と鈴の音だけを頼りにして追尾を続行することにした。
居酒屋、クラブ、賭場などの店が並ぶ道を抜け、そして再び横道へと曲がり……やがて前を行く鈴の音が止まった。
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