♪etc...裏文

□前科一犯彼氏
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――真夏の或る夜。
この世で、深夜と呼ばれるその時間に俺は彼と出逢った。



人というものは、自分を認められてこそ生きがいを持つものだと思う。
……こんなコト考えちゃってる俺、やっぱり生きてる意味なんか無いのかもしれない。

俺は絵を描くのが好きで、美術大学に進む為、都市部に引っ越し、今のアパートで1人暮らしを始めた。美術大学を卒業した後もこのアパートに留まって、就職もせずに自分の好きな時に好きなだけ、好きなものを好きなように描いてきた。
1人暮らしを始めて10年――彼女の1人も作らずに絵ばっかり描いていた俺は32歳になっていた。

しかし今は何の張り合いも無く、「描きたい」と強く思うものも無くて。
絵を描くのを止めてもっとマトモに生きようと思い、今まで何度も「自分」と「絵」を離してみようとしたが、その度に自然と自分の身体は白いキャンバスの前に戻っている。

「俺……生きてんのかな?」

こんなコトまで自分に問う俺、相当病んでる。
都市部だが、少し離れて高台にあるこの住宅街の近辺は結構閑静で、森と言えるような所は近くに無いが、そこら辺の木に縋って鳴く物好きな蝉はいる。

午前2時半。

ふと気がつくと、俺はキャンバスの前、月明かりに照らされた机の上の複雑な置物のデッサンをしていた。
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