Dolls

□かみさまはくるいました
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奇麗なかみさまはくるいました。

むかしむかしにぎゃくたい≠うけたそうです。

かみさまはコドクでした。

トモダチは一人としてちかよりません。

りゆうはカレの目のいろです。
赤い赤い、血をこぼしたような、ニンゲンばなれしたいろだったからです。

子供たちは悪魔の使者だ≠ニ、はやし立て、石をぶつけました。

かみさまはじっとたえました。
いつか、いつか理解してくれる人があらわれることをしんじて…


ぎゃくたい≠ヘしだいに悪化しました。
死にそうになり、ついにかみさまの中のナニかが音を立ててきれました。

やがて、かみさまはおかしくなってしまいました。

幻にしゅうちゃくしたのです。





やがて彼はキメラの研究に没頭します。

良くも悪くも天才であった彼は、天賦の才でこの世に無いものを造りました。
それは人魚や、ハーピー、ドワーフ、ユニコーン等、童話や神話にしか存在しない生き物達でした。

その材料は、最初は猫や犬、馬や虎といったものでしたが、やがて人間として踏み込んではならない領域へと足を踏み入れます。


神は絶対の創造主、背いた狂人がひとり。


人間を材料にして、天使≠造ろうとしたのです。
犠牲になったのはどれだけの人間だったでしょうか。


闇オークション、娼婦館から買い取った処女、幼いストリート・チルドレン、迷子の子供、秀でた才を持つ者、容姿が神に愛でられた様に美しい少女、綺麗な目をした青年…。


数え切れない程の犠牲を払い、造られた天使≠ヘ愛らしい容姿でした。

すっと通った目鼻立ち。
ぷっくりとしたピンクの唇。
ハニー・ゴールドの柔らかな髪。
空を映したロイヤル・ブルーの双眸。
透き通る様に白く、陶器の様な肌。
スラリと伸びた手足。
笑えばどんな人間でも見惚れてしまうでしょう。


彼女は人形師が生涯を捧げて造られたかの様な欠ける事無い美しさを誇っていました。


幾百の人間を犠牲にし、造られた天使≠ヘ、翼がありませんでした。

天使≠ヘそれから死さえ凌駕する痛みを伴う手術を繰り返されます。


『痛い、痛い、痛い…!』


天使≠ヘ叫びます。けれども、その声すらこの世で一番美しい為、彼は手を休めません。


『安心なさい、僕の可愛い天使』

『痛い、痛い、痛い…!止めて、止めてッ!』


狂った神には声は届かず、遂に最期の手術が終わりました。


………何故最期≠ネのかって?

うふふ、教えてあげ
ましょう。


それはね、彼が―――神様が正気に戻ったから。
自分の手の赤に、染み付いた鉄の臭いに、山となって積まれた屍に、手術台にぐったりと横たわる人工天使の少女に。

喉から溢れたのは後悔と自らの狂気への畏怖。

彼は泣きながら最期のひとつの罪を犯し、もう一人の悪魔≠フ青年を造りました。

悪魔≠ヘアルビノの瞳に闇色の髪―――妖艶な容姿と誰しもを魅了する声とを与えました。

天使≠ヘ悪魔≠

悪魔≠ヘ天使≠愛し、護り合う様に…独りぼっちにならない様に。

彼は願いを込めました。
彼等は、彼等だけはどうか幸せになれますように。あぁ、神よ、偉大なるキリストよ…我に、愛しい子らに慈悲を与えたまえ…。

願いはただそれだけ。彼は拳銃で自殺しました。

そこに迷いは無かったのでしょう。

安らかな、本当に安らかな死に顔でした。







―――これが、貴男の罪償いなのですか…。

………。

何時かの夢を見た。

そう、ずうっと前の事よ。

ゆるりと眠りから醒めた。身体を優しく包む少し低い温もりはダブルベッドで一緒に眠る青年のものだ。

ノアール、と名を呼ぶ。ううん、と彼は唸った。眠りから醒めるのが惜しい様だ。
「ノア…」


柔らかい声が彼の耳を擽る。すぅ、とブラッド・レッドの眸が開いた。眠りから離れるのを惜しんでいた色は無い。闇に滲む闇色の髪がサラリと流れた。


「…何か、悪い夢でも見た?」


甘い色香を含んだ声が問う。こくん、と素直に頷く少女に彼は上体を起こした。絡め取る様に、するりと抱きすくめられ、ノアールの髪からはビターチョコレートが香る。
ノアールは少女のハニー・ゴールドの髪を手櫛でとき、アリシャ、と名を呼んだ。猫っ毛からふわりと香るのはシュガーバニラだった。


「ずうっと、ずうっと前の事を夢に見たのよ」

「ずっと、前の?」

「そう…ずうっと前…の」

安心して眠気が戻って来たのだろう。うとうとと微睡み、首がかくりと傾く。ノアールは額にひとつ口付けると、アリシャの頭をくしゃりと一撫でする。


「お休み、アリシャ。次は幸せな夢が見れるよ」

「ん…ノアごめん」

「明日はドーナツでも食べに行こう。ほら、お休み」


ゆっくりとベッドに沈み二人は再び眠りに就いた。

ダーク・ブルーの明け方に浮かぶ白銀の月は、二人を優しく見守っていた。







くあ、と猫の様な短い欠伸をアリシャは幾度と無く繰り返している。
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