カレーの王子様。

□トラブル発生!
1ページ/2ページ







ピンポーン。





ドアの呼び鈴にビックッと体を震わす。


ぎゅっとクッションを抱きしめて息を潜めて物音を立てないようにしてる。



ピンポーン。


また鳴る。


ドンドン。


ドアを叩く音。

いやだ・・・・。


ドンドン。


「いるんだろ?まき?」


「ジョウジくん!!」


その声を聞いて私はバッと立ち上がると勢いよくドアに駆け寄りチェーンと鍵を外して開けた。

勢いよく開いたドアの前で驚いているジョウジくんに裸足で駆け寄り抱きついた。


「・・・・なにやってんだよ?」

ジョウジくんが驚いてる。

ポンポンっといつもみたいに頭を撫でる優しい手。

「なんかあった?」

「・・・・。」

「おばさんから、心配して電話があったぞ。」

「・・・・うん。」

「お前の様子がおかしいって。」

「・・・・うん。」

すっとジョウジくんの体を離れると玄関に入った。

ジョウジくんは何も言わないで後に続く。

ハッとして、ドアに戻るとカギとチェーンをした。

靴を脱ぎながらジョウジくんがそれを横目で見てる。



ワンルームの小さな部屋のラグの上にジョウジくんは胡坐をかいて頬杖を突く。

テーブルの上のコーヒーはもう冷めてしまった。

ジィって見てるから居心地が悪くてもぞもぞする。

「・・・いつまで黙ってる気だよ?」

「・・・・・。」

「おばさんなんか変だって心配してるぞ。

聞いても言わないから余計に心配なんだって・・・

いい加減話せよ?」

「・・・・・。」

「まき?」

俯いた視線の先にあるベッドの下の紙くず。

そればっかり見つめてる。

「・・・おばさんに電話しようか?」

ジョウジくんが携帯を取り出した時、また玄関の呼び鈴が鳴った。

ピンポーン。

ビックっと体が震えた。

携帯をいじっていた手を止めてジョウジくんが私を見てる。

ピンポーン。

「・・・誰か来てるぞ。」

「・・・・・。」

ピンポーン。

「・・・・でなくていいのか?」

「・・・・・。」


ピンポーン。


すっとジョウジくんが立ち上がる。

驚いて見上げると厳しい顔で玄関を見つめてる。

「・・・オレが出る。」

「やだっ!!いいよ!!」

ジョウジくんの手を掴んだ。

「・・・誰だ?」

「・・・・・。」

ピンポーン。

バッとジョウジくんが私の手を振り払う。

足早に玄関ドアに向かう。

慌ててその体にしがみついた。

「やだ!出ないで!!」

「・・・なんでだよ?」

ピンポーン。

「・・・・・。」

ジョウジくんはドアに視線を戻し、覗き穴を覗き込んだ。

「・・・いるんだろ?」

ドアの向こうから声がする。

ぎゅっとジョウジくんにしがみついた手に力が入る。

ジョウジくんは私の手に自分の手を重ねた。

「あれ・・誰?」

低い怒ったようなジョウジくんの声。

ゴソゴソと音がした。

なんの音?

ジョウジくんが不意に屈みこむ。

ドアの下の隙間から入り込んでくるモノをジョウジくんが拾い上げる。

「ダメ!!」

私は慌ててそれをひったくろうと飛びついた。

でも、背の高いジョウジくんはそれを高く持ち上げ・・・

折りたたまれたモノを広げる。

私は必死に手を伸ばす。

ジョウジくんの目にソレが触れる前に取り戻したかった。

でも・・・・

届くことは無く、折り曲げた紙は広げられてジョウジくんの顔が歪む。

ぺたり。

私は座り込んだ。

見られてしまった・・・。

「・・・なんだ、コレ・・・。」

当惑しているジョウジくんの声。
目の前が真っ暗になるような気がした。

ドンドンっとドアが鳴る。

「脅されてんのか?」

ジョウジくんの声は聞いたことが無いくらい低い。

私はこくんとうなずくしかなかった。

「なんで・・早く相談しなかった!!」

「・・・だって・・・。」

「誰だ、相手は?」

「・・・元彼。」

「・・・この前別れたって言う?」

「違う・・・高校の時の・・・」

「ちゃんと別れたのか?」

「うん・・・受験に専念したいからって振られた。」

「それがなんで?」

「・・・最近、地元の子で集まって飲んだ時に会って・・・
彼もこっちに出てきてて、メアドとか交換したの・・・また友達になろうって。

そしたらしばらくして呼び出されて・・・それ見せられて・・・。」

ジョウジくんの手の中にまだ握られた紙。

プリントされたA4サイズの紙には私が写った写真。

ベッドに横たわって目を閉じている。

裸の胸に男が絡んでいる。

そんな写真。



いつ撮られたのかも分からない。

でも・・・・

あの頃ならそんなチャンスぐらい彼ならあったはず。

私が気がつかなかっただけで・・・。


その写真をばら撒くって脅されてた。

彼は受験に失敗して今も浪人生活を送ってる。

受験に失敗したのは私のせいだって。

責任とってまた付き合えって言ってきて、

呼び出しを断ったらいつの間に調べたのかアパートにまで来るようになった。

私は絶対にドアを開けない。

次第に彼はエスカレートして毎日のようにやってきてはこういうプリントをポストに入れるようになって、しつこくドアの前に居座っていた。

恥ずかしくて、情けなくて、

私は誰にも相談できなくて。

ただ、彼があきらめるのを待つしかないってそう思って堪えていた。

ドアはまだ鳴っていた。

呼び鈴も繰り返し鳴る。

「そこにいるんだろー?」

ガチャガチャ鍵の閉まったドアノブを回す。


事情を話しながらも怖くて私は震えるしかない。


ジョウジくんは話を聞き終えると、ポンポン私の頭を撫で立ち上がる。

ガチャガチャっと音を立てながらチェーンを外す。

「・・・なにしてるの?」

「まきはそこにいろ。」

ジョウジくんは私を振り向きもしないでドアを開けた。

「・・・・誰だ、お前!!」

ドアの外から彼の声がする。

「お前・・・手口が幼稚なんだよ。」

ジョウジくんの声は落ち着いているけどすごく低くて怖い。

「ハハッ・・・それ見たの?

なに、あんた今の彼氏?

かわいいだろ?高校生の頃のまき。

オレがコイツの初めての男なんだよ。」

彼は本当に私の初めての相手だった。

好きで好きで。

何も見えなかった。

求められるままに体を許した。

「お前、幼稚だって意味分かってるか?」

「幼稚でも何でも言えばいいだろ?

まきはオレに抱かれてた。それが証拠。

あんたと別れてオレとより戻さないならそれをまきの大学にばら撒いてやる。」

「やれるもんなら、やれよ。」

「・・・はったりじゃねーぞ!!」

「こんな合成。みりゃすぐ分かるぞ。」

・・・・・えっ?

「・・・・。」

彼は黙り込んだ。

「それとな、お前の行為は立派な犯罪だ。

警察呼ぼうか?ストーカーでも恐喝でも余裕で立件されるぞ。

民事裁判も起こすからな。慰謝料それなりに覚悟しとけよ。」

「なっ・・・!!」

引きつった顔でジョージ君を見ている。

「悪いな、オレそーゆー関係の人間だから。

手加減はしないよ。」

「ちょっ・・・ちょまって・・・。」

「あ?」

一際低くジョウジくんが答える。

「すいません・・・冗談ですから・・・

本気でそんなことする訳ないし・・・

昔なじみをちょっとからかってただけですよ・・・。」

驚くほどの変わり身で下手に出た彼はいい訳を始める。

「・・・どうかな?」

「いや!!本当に・・・すいません!!」

「・・・だってよ、まき。

どうするよ?」

急に呼ばれてビクビクしながらジョウジくんを見上げる。

顎でこいと呼ばれる。

イヤだったけど・・・

ジョウジくんの後ろに隠れるようにドアの外に出た。

「まき!!オレ・・ふざけてただけだから。

本気でまきを困らせるつもりなんて・・・。」

必死な形相の彼に怖くて思わずジョージ君の背中に隠れる。

「黙れ!!決めんのはまきだ。」

「・・・・。」

「まき、こいつ・・・どうする?

警察に突き出すか?」

「・・・・。」

ちらっと彼を見ると彼は焦った顔で情けなく頭を下げてる。

昔ダイスキだった彼はそこにはいない。

もう見たくも無かった。

「・・・いい。もういいよ。」

ジョウジくんの背中のシャツをぎゅっと握ってそう言った。

「まき!!ありがとう!!

オレ、お前が本当に好きなんだ!!」

「黙れ!!」

鼓膜がキンっと鳴るくらい大きな声でジョウジくんが怒鳴った。

彼も驚いた顔で引きつっている。

「二度とまきに近づくな。

地元の集まりだろうがなんだろうが顔を一切出すな。

今度まきの前に現れたらただじゃおかねぇ。」

低い声が廊下に響く。

「行け!」

ジョウジくんの声に弾かれて彼はくるっと体を回転させて逃げていった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ