散文

□好きだから嫌い
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気付くと平古場は知念の手を掴んでいた。その体温は死んでいるかのような冷たさだったが、それは自分の思い込みかもしれない、と平古場は思った。

「ぬーで裂くさ、そんな紙意味ねぇだろ」
「ストレス発散さぁ」

知念はピンセットを握りしめた。手を離せ、という意味を込め平古場を睨んだが、平古場は睨み返すだけで離そうとはしなかった。

「嫌いな奴想像しながら。ピンセットだと集中できるんど」
「……たーよ」
「凛」

ガンッ!
知念の口から自分の名前が出たとき、平古場は反射的に知念の顔面を殴っていた。知念は力なく顔を横に振ったが、その手はピンセットを握ったままだった。

「わーもやーが嫌いやっし!」
「知っとーよ」

知念は特に表情を変えずに言った。それに比べ平古場は興奮しきり、軽く息も上がっている。平古場はそれがどうしても気に入らなかった。自分は知念が嫌いだが、どうしてこんな奴に嫌われなければいけないのか。しかも知念は顔色ひとつ変えない。それが許せない。

「ぬーがよ、その顔」
「凛こそ」
「その目がわじわじすんだばぁ!」
「だったら」

知念はピンセットを、勢い良く平古場の目に向けてつきつけた。平古場は一瞬全身をこわばらせた。
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