散文
□紙一重
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「知念、寛」
嗚呼その言葉のなんと美しいことよ。口にするだけで沸き上がる甘美な感情。
言霊は実際にあるのだ、確実に。
「死にたい」
なのに知念ときたら!
さっきからこればかり。愛してる、とか言うならまだしも(ていうかむしろ歓迎)そんな言葉言ってはならない。実現してしまうじゃないか。
知念はきしりと音をたてて椅子に座った。ここは埃を被ったただの物置小屋。
知念が「家に来てもいい」だなんていうから喜んで来たのに、ちょっとやめてくれよ。
「凛に見届けてほしいさ」
知念は先が輪っかになったいかにもなロープを見せ付けるように引っ張った。
その指の動きが妖艶だ、なんて場にそぐわないことを思った。
「死んで何になる?」
「生きて何になる?」
俺の言葉に、知念は繰り返すように言った。
「人は、すぐに何かを憎むから、嫌だ」
「でも、愛することもできるやんやー」
そうだよ、愛だよ愛。
俺はこんなにも知念を愛しているから、毎日が楽しいんじゃないか。
知念は、悲しそうに少しだけ眉をひそめた。
「愛があるから憎しみが生まれるんさー」
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