散文
□子供
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俺から見る千歳は酷く残酷な男だ。しかし周囲の人間はそれを正しいとは言わなかった。
「千歳くん優しいから好きや」
そう言ったのはクラスの女子で、他の女子と恋愛話に花を咲かせているようだった。
「告っちゃえば?」なんて無責任な囃し立てをされていたが、それが実現しても成熟することがないことを俺は知っている。
千歳は俺を好きだからだ。
「好き」と言って最初に口づけをしてきたのはいつだっただろうか。俺がいくら嫌がろうとも千歳は構わず俺に寄って来た。
「ユウジくんが俺んこつ嫌いなら仕方ないっちゃ。関係無い女でも抱くばい」
千歳は俺がそれを良しとしないことを知っている。
もしそれが実現したら、傷つくのは俺でも千歳でもなく、その女なのだ。
俺は自分が特別優しいとは思わないが、少なくとも千歳よりはマシだと思う。千歳は、俺の気持ちも周りのことも結局どうだっていいのだ。
俺が花に見とれ「綺麗」だと言えば、目の前でその花をむしり取り踏みつけた。
「もう汚いけん、俺んこつ見ろ」
残酷な彼は悪びれた様子もなく、人なつっこい顔で笑うのだ。俺は二度と千歳の前で他の物を褒めないようにした。
特に、生き物は。