遙葉書
□雨のち幸
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「弁慶、あれ見て」
景時が指差したその先には…
「…虹…」
雲間から見え隠れする太陽の光が、霧雨に包まれた空気の中、綺麗な弧を描く虹を作り出していた。
「…ねぇ弁慶、宝探しに、いこっか?」
「宝探し…?外に、ですか?」
「そう、外に」
「でも、まだ霧雨が降って…」
「虹が消える前に行かなきゃ、意味が無いんだよ」
景時の言葉に、意味が分からず首を傾げていると、景時が笑って説明した。
「昔からの言い伝えでね、虹の根元には宝物が埋まってるんだって。近づいたら、虹は逃げてっちゃうから、まだ誰も見つけてないんだよね。だから、どんな宝なのかは分からないけど、俺たちが一番最初に見つけて、皆をあっと言わせてやろうよ!」
不意に景時は弁慶の細い腕を掴んで、庭に降り立った。
「わ…っ 景時!」
驚いて声をあげるのも束の間、さっさと2人分の外履きを用意して、弁慶の手を握ったまま、景時は走り出した。
されるがままに自分も走る弁慶は、繫いだ手から、景時の温もりを感じて仄かに頬を紅潮させた。
「んじゃ、絶対宝を見つけるぞ!おーーっ!」
景時が威勢よく掛け声を上げる。
そして、弁慶の方をくるりと振り返ると、悪戯っぽくニカッと笑った。
「ほら、弁慶も!」
「え…」
「おーーって!宝見つけるぞ、おーーーっ!!」
「…お、おーー…」
景時のペースに乗せられて、小さいながらも思わず弁慶も掛け声を上げた。
満足そうに笑った景時の笑顔が、霧雨の雨の中、太陽の様に眩しかった。
一緒にいるだけで、こんなに幸せをくれるんだから、贅沢いっちゃ、いけませんね。
弁慶はフッと微笑むと、繫いだ手から溢れんばかりの幸せを噛み締めて、大空を仰ぎ見たのだった――…
雨のち、幸。
完.
→あとがき