遙葉書
□雨のち幸
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「…よく、降りますねぇ…」
梶原邸の縁側に腰を下ろし、目の前でザーザーと振りしきる雨を見つめて、弁慶はポツリと呟いた。
「ホントだね〜これじゃ、洗濯も出来ないよ…」
隣に腰掛ける景時が溜息をついて嘆いた。
その言葉に少しばかりムッとして、
「洗濯のことだけしか、頭にないんですか?」
と皮肉ると、景時はきょとんとした顔付きで、弁慶の気持ちに気づきもしない。
「別に…良いですけどね」
少し拗ねた様に膝を抱えると、景時は慌てて問いかけてきた。
「ちょ、ちょっと弁慶…何怒ってるの?」
やっぱり…全然分かってない。
弁慶は更に剥れてそっぽを向いた。
「…別に、怒ってなんかないですッ」
「嘘だょ〜やっぱり怒ってるじゃん」
「自分の胸に手を当てて、考えてみたらどうですか!」
我ながら子供っぽいとも感じたが、この位言ってやらないと気がすまない。
「…せっかく、久し振りに2人っきりなのに…」
ポツリと呟くと、景時はえ?と聞き返してきた。
「何でも、ないです」
弁慶はなおもそっぽを向き、ぶっきら棒に答えた。
最近は、戦続きであった為、なかなか2人きりで会う時間が取れなかった。
そればかりか、弁慶は奥州、景時は鎌倉と、行動場所が余りにも離れていた為、俗に言う『遠距離恋愛』という形でやむを得ず時が過ぎるのを待つしかなかった。
そうこうしているうちに、どんどん会いたい欲求は溜まるもので。
やっと再開して2人きりで過ごそうと喜んでいた矢先に、これだ。
激しく降る雨、無神経な景時の言葉…
考えただけで腹が立ってくる。