遙葉書

□君の隣にいるだけで。
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「九郎、好きですよ」

「俺も弁慶の事、好きだぞ?」


縁側で柿にかじりつきながらポツリと呟くと、すぐさま返って来る答え。

…――違う。
僕が欲しいのは、その“好き”じゃない…


「…そうですか」


どうして気が付いてくれないんですか?
それとも、気付いていないフリをしているだけですか?
君を見ると、いつも苛々する。

どうして僕に笑いかけるんですか?
期待なんて、させないで。

いつ頃からか。
君に恋心を抱く様になったのは。

気付いてしまった。
気付くのが、遅すぎた。

君の隣には、もう彼女が居て。
僕は只見守るだけ。

皮肉な事に、彼らの仲を取り持ったのはこの僕自身で。

――あの人の事が、気になっているんでしょう?――

そんな戯れで2人を惑わせて、最初は面白半分に眺めているだけだった。

…なのに。
いつ頃からだろう。
2人並んだ姿を見るだけで胸が絞め付けられる様になったのは。
何となく面白くなくて、妙に苛々して。

これが恋だと気付いたのは、大分後の事。


九郎が僕に話しかける度、胸が高鳴ってどうしようもなくなる。
何時もと違う僕を見て、心配そうに顔をしかめる君にときめいて、口を噤んでしまう。
それでも傍に居るだけで、2人きりで居るだけで、充分だった筈なのに。

気が付けば、九郎の顔を見つめている自分がいる。
触れて欲しいと思う自分がいる。
その腕で、抱き締めて欲しいと願う僕は、おかしいんでしょうか。

でも、君はとんでもなく鈍感だから、僕のさり気無い素振りには全く動じない。
“友人”として、僕を見て笑う。怒る。
想いが溢れ出してしまいそうで、妙に切なくなって、ふとした瞬間に“友人”として九郎に触れても、戯れ事と解した君は笑って僕とじゃれ合うだけ。

ソレ以上を求めてしまう自分に、嫌悪感を抱く。

この想いが、望美さんに向けられたものであったならば、まだ楽だったのかもしれない。

“主従”“昔馴染”“男同士”…
僕と九郎の間には、幾つもの高壁がある。

それでも僕は、この想いを殺しきれないんです。
手が一瞬触れただけで、身体中に痺れが走ってしまうんですよ。
相当重症だと、自分でも分かっています。
分かっているからこそ、苦しい。

決して口にしてはいけない、僕の片恋だから。

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