「におー」
「…」
「におー」
「……」
「におーうまさはる」
「人を臭いみたいに言うのはやめんしゃい」
だらだら、自習になった数学の時間を無為に過ごす。それがまあ学生の正しい姿だと思うのだ。受験生って言っても立海は私立。勉強なんてぎりぎりでも何とかなる。それにあたしも仁王も、成績を心配する程切羽詰まった状況にいない。
「におにお、今日暇?暇だよね?」
「話を聞け」
「わー乱暴な言葉、こわー」
「黙りんしゃい」
口の中でイチゴみるく味の飴を転がす。ふわりと広がる甘い香りに気付いたのか、ぱちりと仁王と目が合う。あたしはにやりと笑った。
「食べたい?」
「食べたい」
「じゃーあたしのお願いひとつ聞いてね」
「…何じゃ?」
ポケットから雨を取り出してその右手を仁王に向けた。そこであたしからのお願いだ。仁王はもちろん全く想像もつかないって顔してて、それが妙に笑えた。ほら、仁王が好きなみなさん、あたしが抜け駆けしちゃうよ。
「一緒に焼肉食べにいこう。好きだったよね、仁王」
「…お前さんの奢りか?」
「まさか。運動部男子の食欲満たすまで奢ってたら財布が空だよ」
「じゃー行かん」
「けち」
ぶう、と子供っぽく拗ねてみる。焼肉、と一度口にしてしまった以上、お腹がそれに対応してしまった。ああお腹すいた。飴を仕舞おうと右手を引っ込めようとした、ら。
「気が変わった」
「はい?」
「行ってやっても良いぜよ」
「本当?」
仁王がひょいと飴を取り上げた。口の中にそれを放り込むと、やはりふわりと甘い香りが漂う。そろそろチャイムが鳴る。そのまま、あたしを撫でて。
「俺のこと、祝ってくれるんじゃなか?」
「……バレてたか」
(はっぴーばーすでい、におー)