短編小説
□私の王子様。
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…私は1人、夜風にあたりながら月を眺めていた。
場所は園崎本家の縁側。
さすがは純和風の魅音の家だ。
縁側から見える景色、風にさざめく木の音、虫たちの鳴き声。
非常に趣のある、素晴らしい空間だった。
…今日の綿流しのお祭りは、本当に楽しかった。
始めに魅音はたこ焼きの早食い勝負をしようと言い出す。
やけに気合いが入った聖人と栄希は、始まりの合図と共にたこやきを喉に詰まらせ、兄弟仲良く地面を転がっていた。
おまけに大やけど。
あの顔と言ったら、思い出しただけで笑ってしまう。
次はかき氷の早食い。
あの兄弟はノドを負傷しているというのに一気に飲み込もうとして、冷たさと痛みに耐え切れなかったのか、同時に鼻からかき氷を吹き出していた。
…何も知らない人が見たら、ただのバカな兄弟だと思うだろう。
あの2人が“東京”に造られた地上最強の生物などと、誰が信じるものか。
そうやって、屋台を片っ端から潰していく。
目を閉じれば、すぐに浮かんでくる。
祭囃子の音や、みんなの笑い声。
…そして、その中にいる自分。
なんて幸せな一日だったんだろう。