短編小説
□you -教えてくれる人-
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園崎家に生まれた双子の片割れ。
望まれる事なく生まれてきた、忌まわしき双子の妹。
それが、私……園崎詩音。
園崎家は跡継ぎ争いを嫌い、恐れる。
だから園崎家には双子がこの世に生を受けた時、後から生まれた者……つまりは妹を殺すという家訓がある。
……にも関わらず、私と姉である魅音がどちらも生きているのは、現頭首である園崎お魎が私達に掛けた最初で最後の情けだったのかも知れない。
だからと言って、私とお姉が同じ扱いを受ける訳じゃない。
私とお姉の生活は、誰の目から見ても平等じゃなかった。
……私とお姉は同じ血を継ぎながらも、違う道を歩みながら互いに今まで生きてきた。
ある日を境に私達の生活は180度回転したけど、それも今となっては良い思い出。
人生がひっくり返るキッカケが鯛だなんて、本当に間抜けな話ですね。
………現在、お姉は雛見沢にある園崎本家で頭首になるために修行中。
私は興宮で自由気ままに一人暮らしを楽しんでます。
興宮に戻ってきたのは割と最近で、少し前までは全寮制の学校に通っていたんですけど……退屈だったので脱走して来ちゃいました☆
今は近くの学校に在学中ですけど、つまらないからたまに暇潰しに行くぐらいです。
そんな私の日課は興宮をぶらぶらと歩き回る事。
目的がある訳じゃないんですけど、もしかしたら“ある人”の姿を見つける事ができるんじゃないかっていう淡い希望に取り憑かれてさまよい歩いてます。
昭和57年、8月。
全くと言って良いほど通ってない学校も夏休みで、いつものように町を歩き回っているとたまに学校の同級生に声を掛けられます。
「あ、魅音!!
テメー!バイトがあるとか言ってプールに行くのドタキャンしたくせに、働いてないじゃねーか!!!」
ほら、こんな感じに………?
突然、すれ違った少年に怒声を浴びせられた。
周りを見渡してみる。
………お姉の姿は、無い。
「なにキョロキョロしてんだよ、お前に決まってんだろーが!」
男にしては長い黒髪を夏の風に揺らされながら、右目を閉じた少年は不機嫌な表情で私を見つめている。
「……あ。
舘澤聖人くん、ですよね?」
少年は不機嫌をかき消す程の驚愕の表情で私を見る。
「……あの、私の顔に何か付いてます?」
私は上目遣いに少年をジッと見つめ、そう尋ねた。
あまりに失礼な少年の反応が面白くて、ついからかいたくなってしまう。
この少年はお姉と同じ学校に通っている、舘澤聖人という人だ。
間違いなく私をお姉だと思っている。
私はたまにお姉と入れ代わってお姉の通う雛見沢分校に行ったりしているので聖人くんや他のお姉の友達を知っているけど、聖人くんは私を知らない。
自分は相手を知っているのに、相手は自分を知らない。
これほどからかい易いシチュエーションは無いだろう。