乱世(仮)
□出会い
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「春蘭様、お戻りを! 戦場は危険にございまする!」
「だーいじょうぶ。あたしは死なないよ」
笑みを零し、少女は騎馬や武士たちで荒れ狂う戦場へと走っていった。
「春蘭様。勝手な行動、お慎みなさって下さい」
すっと音もなく、少女の隣へ姿を現した、一人の女性。格好からするに、女忍者だ。
「あら、菫。あなたもあたしが死ぬと思っているの?」
「そうは言っておりません。もし何かあれば、殿下の寿命がまた縮まってしまいますゆえ」
「心配性ね。あたしは大丈夫だから。この槍さえあれば、ね?」
少女は微笑んだ。
少女の名は、春蘭。齢十四。一国を争う長の姫である。
「やれやれ。姫様、ご無理をなされないよう、お気をつけてくださいよ」
「わかってるって」
春蘭の心配をする彼女、名を菫。女忍者の格好をする彼女の実体は、男。姫である春蘭のお目付け役として幼い頃から一緒に育ってきた従士だ。
しかし、従える主が姫なだけに、菫は生まれてからこの方、女として育てられた。
「菫。わかってるわね?」
「御意」
十年以上もの付き合い。彼女たちは多くを語らずとも意思の疎通が図らえた。
春蘭は何のためらいもなく戦場へ突っ込んでいく。その背後を心配げに菫は見つめながら、片手にクナイを持ち、護衛する。
敵味方を瞬時に区別し、春蘭は敵を容赦なく倒していく。
「姫様じゃ! 我らを助太刀して参ったぞ!」
「こりゃあ、負けてはおれぬな!」
刀や弓を持つ武士たちが、春蘭に負けまいと疲れきった体に鞭打って、敵陣を潰しに掛かった。
「姫様! 背後に敵が!」
何処からかそう叫ぶ声が聞こえた。だが、春蘭はそんなことを気にも留めていなかった。
あたしの背中には、菫がいる。
春蘭は強い信頼を菫に寄せていた。だから、心配は要らなかった。
目の前に立ちはだかる敵だけを、春蘭は睨み、倒していた。すると、背後からうめくような声が聞こえた。