コロシヤダテンシ

□Final and Start
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彼女の荷物は鞄一つだけだった。
他の荷物は彼らが先に持って行ったので、部屋には殆ど荷物が無い。

「…そろそろ行かなきゃ」

彼女はそう呟くと鞄を手に立ち上がった。
そして、寂しそうに荷物の少ない無い部屋を見回す。

すると、壁に貼ってある一枚の写真が目に入った。

「あ…剥がすの忘れてたんだ…」

彼女は写真を壁から剥がすと大切そうに懐にしまった。
そしてもう一度部屋を見回すと、部屋を出た。


「バイバイ、皆」


そう言った彼女の頭には、写真に映っている友人達の姿が浮かんでいた。

彼女が彼らと生きていくということは、写真に映る友人達と会う機会はなかなか無いのだから。


主である彼女がいなくなった部屋には二着の制服が残されていた。

一着は彼女がつい最近まで着ていた中等部の制服。
もう一着は彼女が進学する筈だった高等部の制服で、彼女がその制服に袖を通すことは無い。

二着の見慣れた制服が、彼女の後ろ髪を引いている様だった。











彼女は空港へ向かう途中に少し寄り道をして、進学する筈だった高等部へ寄った。
今日は高等部の入学式で、彼女とは入れ違いに彼女の親友がこの学園の高等部へ入学するのだ。

「あー残念。桜の入学式見たかったなぁ…」

彼女は桜と友人達が打ち解けることを想像して、小さく笑みを溢した。

♪〜 ♪〜

鞄の中に入っていた彼女のケータイが鳴った。
ケータイを見ると、【早く空港に来い】と一文だけのメールが届いていた。

彼女はケータイを鞄にしまうと、踵を返して空港へ向かい始めた。

母校の校歌を小さく口ずさみながら。

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